逃散

逃散についての考察

逃散（ちょうさん）は、中世から近世にかけての日本における農民の抵抗手段や闘争形態を指します。この用語は、特に深刻な課税や不当な扱いに対する農民の集団的な逃避を意味します。古代の律令制が崩壊した後に起こる逃亡や欠落とは異なり、逃散は組織的であり、集団として領主に対抗するための手段として用いられていました。

江戸時代以前の逃散

江戸時代以前では、農民たちは集団で荘園を退去し、他の土地に一時的に避難することがありました。この逃散は、領主側に対する年貢の軽減や代官の罷免を求める要求行動の一環とされます。農民たちは「一味神水」などの儀式を通じて結束を図り、課税や検断に対抗しました。要求が通れば、彼らは戻り、所定の手続きを経て合法的な抵抗手段として認められることもありました。

逃散の現象は、平安時代に律令制が崩壊し、荘園制度が確立される中で次第に見られるようになりました。農民たちは、留守の家族を残したり、逃散の名の下に実際には家に隠れたりして、領主の命令を拒絶することもありました。このような抵抗の記録は、伊賀国の黒田荘や玉瀧荘に見られ、「篠を引く」や「柴を引く」として記述されています。通例、これは逃散の際に用いる篠や柴を田畑に掲げ、侵害を防ぐための手段とされました。

南北朝時代において逃散が増加し、「山林に交わる」「山野に入る」といった記録が残ります。また、戦国時代には戦乱と重税から逃れようとする農民が多く、そのため領主たちは統治の厳格さが求められる時代となりました。1488年加賀における加賀一向一揆は、領主への抵抗の重要な一例とされています。

江戸時代の逃散

江戸時代になると、逃散した百姓たちは多くの都市部へ流入し、低賃金で働くことが一般的になりました。農民自身の逃散は、農作業の減退を引き起こすため、幕府や大名にとっては厳重に阻止すべき事態とされました。特に、江戸時代には百姓の逃散が増えることで、支配者は年貢軽減を模索することになりました。

その一方で、江戸時代の逃散は中世のものとは異なり、宗教的な儀式は薄れ、隠れ籠る形態は取られなくなりました。逃散は公の場に出て、他の領地に訴えを起こす行動としても現れました。特に、江戸時代を通じて年貢の税率が下がる傾向にあったため、逃散行為自体はそれほど深刻な問題ではなくなったと考えられます。それでもなお、百姓は権利を主張する手段として逃散を選択し、都市部での生活を求めていました。

逃散の現代的な解釈

現代日本において、「逃散」という言葉は、勤務医が給料改善を求めて辞職する行為を指すこともあります。特に長時間労働を強いられる医師が、状況に絶望し最後の手段として辞職を選ぶ場合、これが「逃散」と呼ばれることがあります。このような現象は医療崩壊を引き起こす原因ともなり、時には連鎖的に辞職が続く事態となります。

医療崩壊に関する著作では、逃散の概念は「立ち去り型サボタージュ」と表現されることもあり、語感が柔らかい用語が選ばれることが増えています。こうした状況を通して、逃散が持つ歴史的な意味合いは変化し続けています。そして、この集団的な抵抗の形態は、時代を超えて社会の中で反響を呼び続けるものといえるでしょう。

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