一国社会主義 (日本)

一国社会主義の概要

一国社会主義（いっこくしゃかいしゅぎ）は、1934年から1936年までの間に展開された日本における社会主義運動の一形態であり、日本共産党の転向者たちによって主導されました。この思想運動の目的は、コミンテルン（共産主義インターナショナル）からの自立した、日本独自の社会主義実現に向けたものでした。

背景

この運動が始まる背景には、1933年6月に発生した四・一六事件があります。この事件により、日本共産党の指導者である佐野学と鍋山貞親が獄中から「共同被告同志に告ぐる書」を公表し、共産党からの転向を表明しました。彼らの声明は新たな運動の基盤となり、同年8月、獄外にいる西山祭喜らが獄中の幹部と連絡を取り、少数の研究会を設立しました。これにより、労働運動や農民運動への浸透を目指した活動が進められました。

1934年12月には「中央指導部」が設立され、「一国社会主義テーゼ」が策定されました。1935年には、稲村隆一との協力で機関誌『日本政治新聞』が創刊され、この運動の思想を広める媒体として使用されました。『日本政治新聞』の初回号では、戦争の危機に対して社会主義改革が喫緊の課題であるとの認識が示され、日本の労働者は国民的利益を代表する存在でなければならないとされました。

運動の主張と特色

一国社会主義運動は、コミンテルンの公式主義やセクト主義による弊害を批判し、日本の労働者や農民の現実に即した自主的な発展が求められていると主張しました。また、彼らは「指導民族」としての日本人がアジアの他の地域を統合する「大国的社会主義」を提唱しました。

ただし、天皇制に関する立場については、支持する労農大衆の感情に配慮し、天皇制廃止を掲げることは避けました。これにより、彼らの主張は労農大衆の間に共感を生む一方で、具体的な運動や影響を持つには至りませんでした。

論争と運動の終焉

一国社会主義運動は、労働運動や農民運動にほとんど影響を及ぼさなかったにもかかわらず、運動参加者は官憲からの弾圧を避けるために合法的な活動を続けることを期待しました。しかし、1936年の二・二六事件後、当局の厳しい監視と弾圧の中で運動は終息に向かい、機関誌『日本政治新聞』も廃刊に追い込まれました。

参考文献

この運動に関する詳細な情報は、伊藤晃の『転向と天皇制』や高畠通敏の研究に見ることができます。彼らの研究を通じて、一国社会主義が日本の社会主義運動の中で果たした役割やその影響を考察することが可能です。

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