一葉抄

『一葉抄』は、『源氏物語』を注釈した、室町時代の貴重な文献です。様々な名称で呼ばれており、『一葉集』、『源氏物語一葉抄』、『源氏一葉』といった表記も確認できます。

編纂者は、細川家の家臣であり、連歌師として知られた藤原正存です。多くの写本に、1495年（明応4年）正月付の肖柏による跋文（書き出し）が残されており、成立時期は1494年（明応3年）頃と推定されています。書名にある「一葉」は、わずかな情報から全体像を理解できることを意味するのかもしれません。

『一葉抄』の内容は、主に1489年（長享3年）に行われた宗祇の講釈と、肖柏の講釈聞書に基づいています。そのため、当時の連歌師たちの『源氏物語』解釈が色濃く反映されている点が特徴です。特に注目すべきは、「草子地」という概念に関する記述です。これは、『源氏物語』における作者の言葉、登場人物の心情や言葉、物語全体の文体、そして物語の背景などを区別して理解する必要があるという考え方です。『一葉抄』では、この「草子地」について、同時代の注釈書の中でも最も詳細な定義を与えていることから、『源氏物語』注釈史において重要な位置を占めています。

『一葉抄』は、非常に多くの写本が作成され、広く流布したことがわかります。三条西実隆や細川幽斎といった、当時を代表する著名人による自筆の写本も複数存在しているという事実からも、その重要性が伺えます。

『一葉抄』の翻刻は、いくつか存在します。広島平安文学研究会による『源氏物語一葉抄』全9冊（1970～1974年）や、『源氏物語古注集成 第9巻』（桜楓社、1984年）、中野幸一編『源氏物語資料影印集成 2』（早稲田大学出版部、1990年）などが挙げられます。これらの翻刻は、『一葉抄』を現代に伝える上で重要な役割を果たしています。

『一葉抄』に関する研究も盛んです。樋口元巳の「源氏物語の読くせ--源氏物語聞書と一葉抄を中心に〔付 読くせ一覧〕」(1985年)や、井爪康之の「一葉抄の成立と性格について」(1981年)など、多くの論文が発表されています。これらの研究は、『一葉抄』の成立背景、内容、そして『源氏物語』研究における位置づけを多角的に解明する上で、大きな貢献をしています。

このように、『一葉抄』は、室町時代の連歌師の『源氏物語』解釈を伝える貴重な資料であり、『源氏物語』研究において欠かせない文献です。その詳細な「草子地」の定義や、多くの写本・翻刻の存在、そして活発な研究活動は、『一葉抄』が現代においても重要なテキストであることを示しています。

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