丁家洲の戦い

丁家洲の戦い：南宋滅亡への序章

1275年、南宋とモンゴル帝国の間で繰り広げられた丁家洲の戦いは、南宋の歴史に終止符を打つ決定的な戦いでした。長江という天然の防壁と強力な水軍を誇る南宋でしたが、モンゴル帝国の執拗な攻勢の前に屈し、首都臨安は陥落、南宋は滅亡へと突き進んでいきます。

モンゴルの長期戦略と襄陽の陥落

モンゴル帝国は、それ以前にもクチュやモンケによる南征を経験していましたが、いずれも南宋の抵抗に阻まれて失敗に終わっていました。しかし、クビライはこれまでの失敗を教訓に、長期戦による南宋の屈服という戦略を採用しました。長年にわたる包囲戦、水軍の強化、そして新兵器の導入といった綿密な準備を経て、南宋防衛の要衝である襄陽を攻略（襄陽・樊城の戦い）。この襄陽の陥落が、南宋滅亡への道を大きく開くことになります。

賈似道の敗北と南宋軍の崩壊

襄陽陥落から一年後、モンゴル軍はバヤンを総司令として南宋への本格的な侵攻を開始します。投降兵を優遇したことで、モンゴル軍は長江中流域を次々と制圧していきます。一方の南宋は、前線の諸将が次々と投降する事態に陥り、ついに宰相賈似道が自ら水陸両軍を率いて迎撃に出陣することになります。

賈似道は蕪湖で和議の使者を派遣しますが、モンゴル側は進軍を継続することを決定。クビライの指示を尊重して一時的に和議を結ぶべきか協議したバヤンと副将アジュの間で、アジュは和議に反対し、進軍を主張。バヤンもアジュの意見に賛同し、進軍を決断します。

1275年3月19日、丁家洲で南宋軍とモンゴル軍は激突します。南宋軍は13万の兵と2500の軍船を擁する大軍でしたが、モンゴルの「巨炮」による攻撃で南宋水軍は壊滅的な打撃を受けます。南宋水軍を率いる夏貴は真っ先に敗走し、賈道も動揺して退却を命じ、南宋軍は総崩れとなりました。

アジュ率いるモンゴル軍は敗走する南宋軍を猛追し、多くの兵士が溺死しました。賈似道、夏貴、孫虎臣といった南宋の将軍たちは各地に逃亡しますが、もはや抵抗は不可能でした。

臨安の陥落と南宋の滅亡

丁家洲の戦いの大敗によって、南宋朝廷はモンゴル軍に抵抗する力を失いました。首都臨安は無血開城され、南宋は滅亡の道を辿ることになります。多くの南宋の旧臣は賈似道の責任を問うことになりますが、クビライは彼らの態度を皮肉る言葉を遺しています。丁家洲の戦いは、南宋滅亡の直接的な原因であり、長らく続く南宋の歴史に終止符を打つ、歴史的な出来事となりました。

参考文献

杉山正明『モンゴル帝国の興亡（下）世界経営の時代』講談社現代新書、講談社、1996年
宮崎市定「南宋末の宰相賈似道」『宮崎市定全集11』、岩波書店、1992年

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