七千人大会

七千人大会（ななせんにんたいかい）とは、1962年の1月11日から2月7日にかけて、中華人民共和国の首都である北京で開催された、中国共産党中央による拡大工作会議の通称です。この会議には、中央各部、各省・市・自治区、地域・県レベルの党委員会、主要な工業・鉱業部門、さらに軍の幹部など、約7000人もの党指導層が一堂に会したことから、参加者数にちなんでこの名称で呼ばれることとなりました。会議の開催自体は当時公にされませんでしたが、後に文化大革命の時期に紅衛兵たちの活動を通じてその存在が広く知られるようになりました。

開催の背景

この会議の開催に至るまでには、複雑な政治的、経済的背景がありました。1958年から始まった「大躍進運動」は、急速な工業化と農業集団化を目指しましたが、現実離れした目標設定や非科学的な手法により、深刻な経済的混乱と大規模な飢饉を引き起こしました。特に農業生産の壊滅的な不振は、数千万人に及ぶ餓死者を生み出したとされています。

1959年夏に開催された廬山会議では、国防部長だった彭徳懐が運動の失敗を批判しましたが、毛沢東によって「反党集団」として失脚させられました。しかし、この出来事によって毛沢東の指導に対する党内の不信感は募り、その政治的権威は低下しました。毛沢東は国家主席の職を辞し、劉少奇がその後を継いで経済政策の実権を握ることになりました。劉少奇の下で、経済の調整と立て直しが進められ、状況はわずかに改善の兆しを見せ始めていました。

このような状況下で、党全体として大躍進運動の失敗を総括し、今後の経済再建の方針を議論する必要に迫られ、七千人大会の開催が決定されたのです。

会議の主な内容

大会の主要な議題は、大躍進運動がもたらした壊滅的な結果、特に農業不振による広範な飢餓と経済の混乱に対する責任問題と、今後の対策の検討でした。劉少奇は、党中央を代表して作成された報告書の草稿を大会に提出しました。この草稿は、参加者たちの率直な意見を反映させる形で議論を重ね、最終的に正式な「拡大会議の報告」としてまとめられました。

報告書では、過大な生産目標、非現実的な農業政策、人民公社制度の運用における失敗などが、混乱と飢餓の直接的な原因として挙げられました。責任について、報告書は「われわれには経験が不足していた」ことや、「一部の指導的地位にある同志たちに謙虚さが欠けていた」ことに原因の一部を求めつつも、大躍進の基本路線自体は誤りではなかったとする立場を維持しました。しかし、一方で「欠点や誤りに対する責任は、まず中央が負うべきである」と明確に指摘しました。大躍進運動を主導したのは他ならぬ毛沢東であり、この指摘は事実上、毛沢東に対する暗黙の批判として受け止められました。

毛沢東の自己批判と権力構造

会議は当初の予定を超えて延期され、北京に留め置かれた地方幹部からは、大躍進政策に対する積年の不満や具体的な被害報告が率直に噴出しました。こうした状況を受けて、毛沢東自身も大会の場で自己批判を行いました。「民主主義が十分ではなかった」こと、そして「中央の犯した誤りについては、中央主席である自分自身にまず責任がある」と述べ、一定の責任を認めました。

しかし、毛沢東は自己批判に留まらず、自身の政治的立場を巧みに立て直すことも忘れませんでした。廬山会議で毛沢東を擁護し、その窮地を救った林彪に、この大会でも発言の機会を与えました。林彪は演説の中で、大躍進で生じた困難は「総路線そのものの問題ではない」とし、「困難な時期だからこそ、毛主席の指導に依拠しなければならない」と力説しました。これは、会議で高まった毛沢東への批判をかわし、その指導体制の正当性を再確認させるための重要な一手でした。

会議の影響と報告書の公開

七千人大会は、大躍進運動の失敗を党全体として公式に総括し、その後の経済調整路線の基礎を確立した点で歴史的な意義を持ちます。しかし同時に、大躍進を主導した毛沢東の権威が低下し、劉少奇らの実権派が台頭する契機ともなりました。この会議で表面化した指導層間の対立や路線の違いは、後の文化大革命へと繋がる伏線となったとも考えられています。

大会で採択された報告書の内容は、その重要性にもかかわらず、すぐに一般に公開されませんでした。文化大革命が始まって間もない1966年6月、当時国家主席だった劉少奇と党中央総書記だった鄧小平は、「建党45周年にあたる7月1日に報告書を公開し、各級党委員会と幹部が党の民主集中制を徹底し、民主主義を発揚し、業務改善に役立てるべきだ」と提案しましたが、毛沢東によって「時期尚早である」として却下されました。結局、この重要な報告書が公式に全文公開されるのは、毛沢東の死後、改革開放路線が始まった後の1978年まで待つことになったのです。

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