万葉ラブストーリー

ドラマ万葉ラブストーリー

「ドラマ万葉ラブストーリー」は、NHK奈良放送局が2006年から2010年にかけて制作し放送した、全5回のテレビドラマシリーズです。この企画は、奈良時代に編纂された日本最古の歌集であり、数多くの恋の歌が含まれる「万葉集」を題材としています。現代の奈良県各地を舞台に、万葉集に詠まれた普遍的な恋心や人間模様に着想を得た、様々な形の短編ラブストーリーが描かれました。

このシリーズの大きな特徴は、ドラマの脚本を一般から広く公募した点にあります。制作にあたっては、「秋」「夏」「春」「冬」と季節をテーマにした脚本コンテストが実施され、全国から寄せられた応募作品の中から、厳正な審査を経て選ばれた3編が、それぞれの回でオムニバス形式のドラマとして制作・放送されました。脚本コンテストは、2007年に放送された「万葉ラブストーリー 秋」から本格的に導入されました。審査員には、映画監督の井筒和幸氏、万葉学者であり奈良大学教授の上野誠氏、脚本家の今井雅子氏といった各界の専門家が名を連ね、最終回の「冬」では一般審査員による選考も試験的に取り入れられました。

脚本コンテストへの応募数は、シリーズを重ねるごとに増加しました。最初の「秋」では458件でしたが、「夏」には572件、「春」には654件と増え、最終回の「冬」では759件に達し、この企画に対する関心の高さがうかがえます。選考の結果として、すべての回で最優秀賞（入選）が選出されたわけではなく、「秋」と「春」の回では、佳作のみが選ばれる結果となりました。

シリーズの始まりは、2006年7月7日にNHK奈良放送局開局70周年記念として放送された単発ドラマ「ドラマ・万葉ラブストーリー」です。この初回では、「苦いアップルパイ」「受心メール1件」「すれ違いの天の川」の3作品が放送されました。翌2007年からは脚本公募形式となり、「万葉ラブストーリー 秋」として放送。「万葉歌碑はハート色」（脚本：馬場秀子）、「二度目の初恋」（脚本：西村有加）、「フルムーン・ハネムーン」（脚本：藤井香織）の3編すべてが佳作として選ばれました。この「秋」の回では、各作品の世界観がさりげなくリンクするような演出も試みられています。

シリーズを通じて、奈良県内の多彩な景観が物語の舞台となりました。2008年放送の「夏」では、平城宮跡やなら燈花会が舞台となった「人込みさがし」（脚本：宮埜美智）、長谷寺を背景にした「花守り」（脚本：縞古都実）、ならまちやおふさ観音を舞台にした入選作「誰そ彼からの手紙」（脚本：高橋幹子）など、歴史的な名所や夏の風物詩が物語と融合しました。2009年放送の「春」では、墨職人や筆職人といった奈良ならではの伝統的な職業に携わる人物が登場する作品も描かれています。そして、平城遷都1300年の年であった2010年に放送された最後の回「冬」では、十津川村の谷瀬の吊り橋（「世界でいちばん長い道」、脚本：長谷川薫）、明日香村の棚田（入選作「棚田のマレビト」、脚本：山下雅洋）、川西町や若草山焼き（「貝ボタン」、脚本：荒木敏子）など、奈良県内のより広範な地域が舞台となり、塩見三省氏や平愛梨氏らが出演し、それぞれの土地の風土に根差した人間ドラマと恋の物語が展開されました。

「ドラマ万葉ラブストーリー」は、古代の歌集である万葉集と現代の奈良というユニークな組み合わせを通じて、一般からの創作意欲を引き出し、地域に根ざした新たなラブストーリーを生み出した試みでした。多くの応募と多様な作品の映像化を経て、奈良の豊かな自然や歴史、そこに生きる人々の営みと、万葉の時代から変わらぬ普遍的な感情である「恋」とが織りなす、温かい人間ドラマシリーズとして視聴者に届けられました。

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