三フッ化リン

三フッ化リン：性質、合成、および生理活性

三フッ化リン (PF3) は、錯体化学において重要な役割を果たす無機化合物です。常温常圧では無色の気体として存在し、水とはゆっくりと反応します。その化学的性質は、一酸化炭素と類似点を持つ一方、特異な性質も示します。

物理的性質

PF3 分子の F-P-F 結合角は約 96.3°です。標準生成エンタルピーは-945 kJ/molと非常に大きく、これは化合物が安定であることを示唆しています。リンのNMRスペクトルでは、H3PO4 を基準として97 ppm低磁場側にシグナルが現れます。この数値は、PF3 の電子状態に関する情報を提供します。

化学的性質

三フッ化リンは、特に高いpH条件下で加水分解を受けますが、三塩化リンに比べて反応性は低いです。高温でない限りガラスを侵さず、無水の水酸化カリウムを用いて乾燥させることができます。高温の金属と反応させると、リン化物とフッ化物が生成します。また、アンモニアなどのルイス塩基と反応し、付加体を形成します。さらに、臭素や過マンガン酸カリウムなどの酸化剤によって酸化されます。

遷移金属錯体化学において、PF3 は強力なπアクセプター配位子として振る舞います。低原子価の金属イオンと様々な錯体を形成し、一酸化炭素では安定な錯体を形成しないような金属イオンとも安定な錯体を形成することがあります。例えば、Pd(PF3)4 は知られていますが、Pd(CO)4 は存在しません。

多くのPF3 配位子を持つ金属錯体は、対応する金属カルボニル錯体との配位子交換反応によって合成されます。しかし、ニッケルは100℃、35 MPa の条件下でPF3 と直接反応し、Ni(PF3)4 を与えます。クロム錯体 Cr(PF3)6 は、ビス(ベンゼン)クロムから合成することも可能です。この反応は、ベンゼン配位子がPF3 によって置換される配位子交換反応です。

Cr(C6H6)2 + 6 PF3 → Cr(PF3)6 + 2 C6H6

合成法

三フッ化リンは一般的に、三塩化リンからのハロゲン交換反応によって合成されます。フッ化物源としては、フッ化水素、フッ化カルシウム、三フッ化ヒ素、三フッ化アンチモン、フッ化亜鉛などが用いられます。代表的な反応は、三塩化リンとフッ化亜鉛の反応です。

2 PCl3 + 3 ZnF2 → 2 PF3 + 3 ZnCl2

生理活性と毒性

三フッ化リンは、一酸化炭素と同様に、ヘモグロビン中の鉄イオンと強く結合し、酸素の運搬を阻害します。そのため、強い毒性を持ち、ホスゲンに匹敵する危険性があります。取り扱いには細心の注意が必要です。

まとめ

三フッ化リンは、その特異な化学的性質と生理活性から、錯体化学や毒性学の分野で重要な化合物です。その合成法、性質、そして危険性について理解することは、研究開発や安全管理において不可欠です。

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