三・一運動

三・一運動：朝鮮の独立をかけた闘いとその歴史的意義

1919年3月1日、日本による植民地支配下にあった朝鮮で、大規模な独立運動が勃発しました。これが「三・一運動」です。韓国では「三一節」として祝日とされており、国家的な記念式典が開催される一方、北朝鮮では否定的な評価がなされているなど、南北間で認識の差が見られる重要な歴史的事象です。

運動の背景

第一次世界大戦終結直後、アメリカのウッドロウ・ウィルソン大統領が発表した「十四か条の平和原則」の中の民族自決の理念が、朝鮮における独立運動の高まりに影響を与えました。留学生を中心とした若者たちが中心となり、独立宣言書が起草され、密かに朝鮮半島へと運ばれました。一方、民衆の間では、スペイン風邪の流行や、朝鮮王の死に関する噂などが社会不安を煽る要因となっていました。こうした状況下で、キリスト教、仏教、天道教などの宗教指導者らが中心となり、独立運動の計画が具体化していきました。

運動の発展

3月1日、京城（現在のソウル）のパゴダ公園（現在のタプコル公園）で、33人の宗教指導者らによって「独立宣言」が読み上げられました。当初の計画地とは異なりましたが、この宣言は瞬く間に人々の心に火をつけ、数千人の学生、そしてやがては数万人規模の市民が参加する大規模なデモ行進へと発展しました。参加者たちは「独立万歳」と叫びながら街を練り歩き、朝鮮半島全土へと運動は広がっていきました。

日本の対応と運動の鎮圧

朝鮮総督府は、警察や軍隊を動員して、運動の鎮圧に乗り出しました。武力衝突は避けられず、多くの朝鮮人が犠牲となりました。公式記録では数百名とされていますが、亡命者の報告書には、数千名規模の死者、そして数万名規模の負傷者、逮捕者が出たとされています。日本側も一定数の死傷者を出しましたが、朝鮮人側の犠牲は圧倒的に多かったです。鎮圧にあたった軍隊の中には、命令を逸脱した行動による事件も発生し、裁判にかけられる例もありました。

運動の終息とその後

総督府による徹底的な弾圧の結果、三・一運動は次第に終息へと向かいました。多数の逮捕者が出ましたが、死刑や無期懲役の判決を受けた者は少なく、多くは比較的軽い刑罰で釈放されました。運動の中心となった宗教指導者たちも、懲役刑を受けましたが、後に減刑され、釈放されました。一部の活動家は国外に亡命しました。三・一運動後、大規模な抵抗運動はしばらくの間沈静化しました。

運動への評価

日本国内では、運動発生当初は「騒擾事件」として報じられましたが、一部の識者からは、朝鮮総督府の統治における問題点や、朝鮮人の独立への願いへの理解を示す声も上がっていました。

三・一運動は独立という最終目的を達成できませんでしたが、朝鮮における民族意識の高まりを示す歴史的転換点となりました。運動によって、朝鮮総督府の統治政策に一定の変化が見られるようになり、文化統治へと移行するきっかけを作ったという見方もあります。しかし、同時に日本による同化政策も強化される結果となりました。

韓国では、三・一運動は独立運動の象徴として、高い評価を得ています。一方、北朝鮮では、「失敗したブルジョワ蜂起」と否定的に評価されています。これは、南北朝鮮における歴史認識の違いを示す象徴的な事例と言えるでしょう。三・一運動は、現代の朝鮮半島情勢を考える上で、依然として重要な意味を持つ歴史的事象です。

参考文献

朴慶植『平凡社選書49 朝鮮三・一独立運動』平凡社、1976
李光植ほか編「3・1運動と大韓民国臨時政府の成立」『朝鮮韓国近現代史事典』第二版、日本評論社、2006
木原悦子『万歳事件を知っていますか』平凡社、1989
小笠原亮一『三・一独立運動と堤岩里（チェアムリ）事件』日本基督教団出版局、2000
姜徳相『朝鮮独立運動の群像―啓蒙運動から三・一運動へ』青木書店、1998
長田彰文『日本の朝鮮統治と国際関係―朝鮮独立運動とアメリカ 1910-1922』平凡社、2005
* 植村隆ほか「100年前のろうそくデモ 特集 3・1朝鮮独立運動」『 週刊金曜日』2019年2月22日（通巻1221）号：14-37。

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