三上章

三上章：日本の言語学に革命を起こした数学教師

三上章（1903-1971）は、20世紀日本の言語学を語る上で欠かせない重要な人物です。数学教師としての経歴を持つ異色の言語学者として、従来の文法概念を覆す独自の理論を提唱し、現代日本語文法研究に大きな足跡を残しました。本稿では、彼の生涯、研究内容、そしてその後の影響について詳述します。

生涯と経歴

広島県出身の三上は、広島高等師範附属中学から山口高等学校を経て、東京帝国大学工学部建築学科を卒業しています。卒業後は台湾総督府に勤務した後、朝鮮半島や広島などで長年数学教師を務めました。数学教師としての生活の中で、哲学への関心が深まり、日本語文法研究へと進んでいきます。

1940年には、加茂一政の筆名で『技藝は難く』を自費出版。その後、佐久間鼎に師事し、本格的に日本語文法の研究を開始しました。1960年には『構文の研究』で文学博士号を取得。東洋大学、武庫川女子大学、大谷女子大学などで教鞭をとり、後進の育成にも尽力しました。1970年にはハーバード大学に招かれ講義を行うなど、国際的にも高い評価を受けていました。

主語廃止論と革新的な文法理論

三上の最大の功績は、従来の日本語文法における主語概念を批判し、新たな文法理論を構築したことでしょう。彼は「主語廃止論」とも呼ばれる独自の理論で、文の構造を主語と述語という単純な枠組みで捉えるのではなく、文の機能や文脈を重視した分析を行いました。

特に注目すべきは、動詞の分類です。従来の他動詞と自動詞という二分法ではなく、「能動詞」と「所動詞」という独自の分類を提案しました。この「所動詞」は、現代の理論言語学における非対格動詞に相当し、「ある」「いる」「要る」など、受動態にできない動詞を指します。この分類は、日本語の文法構造を理解する上で非常に重要な概念です。

三上の理論は、益岡隆志の研究によってその体系的な性格が明らかになり、現代の日本語文法研究にも大きな影響を与え続けています。

著作と影響

三上は数多くの著作を発表し、それらは現代でも高く評価されています。『象は鼻が長い』は入門書として広く親しまれ、『現代語法序説』、『日本語の構文』などの著作は、彼の革新的な文法理論を体系的に示したものです。

これらの著作は、後の言語学者たちに多大な影響を与え、日本語文法研究の発展に大きく貢献しました。現在でも、三上の理論は研究対象として取り上げられ、その独創性と深みは再評価されています。三上章の生誕100年を記念した「三上章フェスタ」が開催されるなど、彼の功績は広く認識され、現在もなお、言語学研究に大きな影響を与え続けているのです。

まとめ

三上章は、数学教師という異色の経歴を持ちながらも、独自の文法理論で日本の言語学に革命を起こした稀有な存在でした。彼の業績は、現代の日本語文法研究に多大な影響を与え続け、その革新的な考え方は、今後も多くの研究者たちにインスピレーションを与え続けるでしょう。 彼の研究は、単なる文法の研究にとどまらず、言語と人間の思考、そして文化の関係性を探求するものであったと言えるでしょう。 彼の残した著作は、現代の言語学研究者にとって、いまだに貴重な資源であり続けています。

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