三井安田法律事務所

三井安田法律事務所（みついやすだほうりつじむしょ）は、かつて日本に存在した渉外法律事務所です。1988年8月、三井拓秀（みついたくひで）、安田三洋（やすだみつひろ）、和仁亮裕（わにすけひろ）、前田博（まえだひろし）の4名の弁護士によって設立されました。前身となる事務所が1986年に三井弁護士らによって立ち上げられており、そこから独立する形で正式な活動を開始しました。英語名は設立当初「Mitsui, Yasuda, Wani & Maeda」でしたが、後述の経緯により変更されました。

特徴と規模

当事務所は、特に金融法務の分野で強い専門性を持ち、国際的な案件も数多く手がける渉外法律事務所として知られていました。その業務拡大に伴い所属弁護士数も増加し、2004年4月時点では73名を擁する規模となりました。これは当時の日本における主要な法律事務所の中で第6位に位置する規模であり、短期間で国内有数の事務所へと成長を遂げました。なお、事務所名に冠された「三井」および「安田」は設立者の姓であり、日本の旧財閥系企業である三井グループや安田財閥との資本的あるいは血縁的な関連は一切ありませんでした。

解散とその経緯

順調に規模を拡大していた三井安田法律事務所でしたが、2004年末に予期せぬ解散という結末を迎えました。この解散は、英国を拠点とする大手国際法律事務所であるリンクレーターズとの提携、具体的にはその傘下に入るか否かを巡る内部対立が直接の原因とされています。

2004年に入ると、事務所内部で将来の方向性、特に外部事務所との提携について議論が重ねられました。しかし、リンクレーターズからの吸収提案などが報じられる中で、パートナー間での意見の相違が顕在化し、深刻な内部分裂へと発展しました。これを受けて、同年夏以降、主要なパートナー弁護士たちが相次いで事務所を離れる事態となりました。

具体的な動きとしては、

2004年7月1日：藤平克彦弁護士、我妻由佳子弁護士が伊藤見富法律事務所へ移籍。
2004年7月12日：日本経済新聞が一面で「英法律事務所、三井安田を吸収」と報じ、リンクレーターズによる事務所の一部吸収の可能性が公になりました。
2004年8月：戸谷雅美弁護士がオリック東京法律事務所へ代表弁護士として移籍。
2004年9月：小木曽良忠弁護士がオリック東京法律事務所へ、内藤加代子弁護士が大江橋法律事務所へそれぞれパートナーとして移籍。
* 2004年10月：設立者の一人である前田博弁護士を含む9名の弁護士が、西村ときわ法律事務所（現在の西村あさひ法律事務所）へパートナーとして移籍しました。この多数の移籍に伴い、事務所の英語名から「Maeda」が外され、「Mitsui, Yasuda & Wani」に変更されました。

こうした主要メンバーの大量離脱により、事務所の維持が困難となり、2004年12月5日をもって三井安田法律事務所は解散しました。

解散後の展開

事務所解散後、所属していた弁護士たちはそれぞれの道を歩みました。設立者の一人である三井拓秀弁護士は、解散翌日の2004年12月6日に、かつての事務所と同じ所在地に「三井法律事務所（Mitsui Company）」を新たに設立しました。また、安田三洋弁護士と和仁亮裕弁護士は、リンクレーターズ法律事務所を設立し、後に改正外国弁護士等に関する特別措置法（外弁法）の施行（2005年4月1日）に伴い、リンクレーターズ外国法事務弁護士事務所との間で外国法共同事業を開始しました。その他の多くの弁護士も、既存の法律事務所に移籍したり、新たな事務所を設立したりするなど、それぞれが活動の場を移しました。

代表的な所属弁護士

三井安田法律事務所に所属していた代表的な弁護士には、設立者である三井拓秀、安田三洋、和仁亮裕、前田博の各氏のほか、迫本淳一（さこもとじゅんいち）、佐藤明夫（さとうあきお）、猪木俊宏（いのきとしひろ）といった方々がいました。

三井安田法律事務所は、その短期間の活動の中で日本の渉外法務分野、特に金融法務において大きな存在感を示しましたが、内部の不協和音によって志半ばで幕を閉じることとなりました。その解散劇は、当時の日本の弁護士業界における競争激化や国際化の波、そして大手事務所の経営における難しさを示す象徴的な出来事の一つと言えるでしょう。

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