三全音

三全音（さんぜんおん）は、音楽理論における重要な音程の一つであり、その特異な響きから、歴史的に様々な解釈がなされてきました。名前の由来は、文字通り全音3つ分の音程であることに基づきます。英語では「トリトーン」（Tritone）と呼ばれます。

具体的には、三全音は増四度、もしくは減五度として表されます。増四度とは、例えばハ長調のスケールでいうと、ファからシの音程を指します。中世の音楽理論では、「Mi contra fa」（ミ・コントラ・ファ）という言葉で表現されることもありました。これは、「ファに対するシ」という意味で、miが現代の音楽でいうシに相当します。

三全音は、その不安定な響きから、長らく不協和音として扱われてきました。特に中世からルネサンス期にかけては、「音楽の悪魔」（Diabolus in musica）とまで呼ばれ、作曲において可能な限り避けられる傾向にありました。これは、三全音が持つ緊張感や解決を求める性質が、当時の音楽の調和を重んじる価値観と相容れなかったためと考えられます。

しかし、バロック時代以降、音楽の表現が多様化するにつれて、三全音は徐々に積極的に用いられるようになりました。バッハなどの作曲家は、三全音を効果的に使用し、音楽に緊張感やドラマティックな要素を加えました。古典的な和声学においても、属七の和音のような基本的な和音の中に、音の配置によっては三全音が生じることがあります。属七の和音は、ドミナントモーションにおいて重要な役割を果たし、三全音を含むことで、より強い解決への欲求を生み出します。

現代音楽においては、三全音はさらに自由な発想で用いられています。調性音楽だけでなく、無調音楽や実験的な音楽においても、その独特の響きは重要な表現手段となっています。三全音を単独で鳴らすと、西洋音楽に慣れた耳には属七の和音を強く意識させる響きが感じられます。これは、三全音が持つ潜在的な緊張感と、解決への期待感が、西洋音楽の基本的なコード進行と深く結びついているためでしょう。このように、三全音は、音楽史を通じて禁忌の音程から表現の幅を広げる重要な要素へと変化してきました。

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