三十石

三十石（さんじっこく）

上方落語の演目の一つである『三十石』は、別名『三十石夢乃通路』とも呼ばれます。元々は旅噺「東の旅」の一部で、伊勢参りの最終部、京から大坂への帰路を描いたものでした。現在は独立した演目として広く知られています。

あらすじ

物語は、主人公の二人が京からの帰途、伏見街道を下り、寺田屋浜から夜舟に乗り、大坂へ帰る場面から始まります。前半は、宿の描写や船が出航する際の賑わい、美人が乗船すると期待する好色な男の妄想、道中で出会う様々なものに触れての軽妙な会話、船頭の物真似などが繰り広げられます。

後半では、船中で五十両もの大金が盗まれる騒動が発生します。しかし、船頭の機転により犯人は捕まり、噺はめでたく大団円を迎えます。

歴史

大阪では明治初期に初代桂文枝が、この前座噺を大ネタにまで磨き上げました。その後、2代目桂小文枝、5代目笑福亭松鶴らが得意とし、6代目笑福亭松鶴、5代目桂文枝、3代目桂米朝、2代目桂枝雀なども得意としていました。

東京では明治時代に4代目橘家圓喬が上方から伝えました。6代目三遊亭圓生は、子供の頃に圓喬の演じる『三十石』を聴いた際、舟歌が無かったと述べています。その後、5代目三遊亭圓生が得意とし、6代目三遊亭圓生に受け継がれました。6代目圓生は、この話をより良くするために5代目松鶴に教えを請い、舟歌に関しても5代目松鶴からの教えを参考にしたといいます。

江戸落語では、近代に入り、東京・京都間の移動が汽車に置き換えられた形で演じられることもあります。

前座試験としての『三十石』

戦前には、『三十石』の舟歌の場面で、楽屋にいる前座が銅鑼を鳴らす役割がありました。銅鑼の鳴らし方には宵、夜更け、明け方の三種類があり、それを正確にこなせない者は、「他人の鳴り物一つ気を回さぬ未熟者が、どうして自身の芸の修練が出来るか」という理由で、二つ目に昇進させてもらえなかったといいます。

バリエーション

6代目笑福亭松鶴は、番頭が船客の名前を確認する場面で、「中川清、長谷川多持、明石徳三、河合一、石原裕次郎、長嶋茂雄」といった名前を挙げていたそうです。

関連項目

* くらわんか舟: 三十石船を相手に飲食物を販売していた商人。彼らの横暴な物言いが、この作品のネタとしても使われています。

『三十石』は、上方落語の豊かな世界を伝える、人情味あふれる演目です。

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