三反五反運動

三反五反運動（さんはんごはんうんどう）

三反五反運動は、1951年12月頃から中華人民共和国で開始された大規模な政治キャンペーンです。終息時期については、1952年夏とする見解や、1953年5月とする見解があります。

この運動は、「三反」と「五反」という二つの柱から構成されていました。

「三反」運動

1951年に提唱された「三反」運動は、当時の官僚や政府関係者における三つの弊害を取り締まることを目的としていました。

1. 反汚職（反貪汚）: 汚職の根絶を目指しました。
2. 反浪費（反浪費）: 無駄な支出や資源の浪費を戒めました。
3. 反官僚主義（反官僚主義）: 官僚的な硬直性や非効率性の排除を試みました。

イギリスの歴史家ジョナサン・スペンスによれば、三反運動は1951年末に満洲で始まり、主な対象は中華民国時代から公務員として勤務していた人々や、旧中国国民党員から中国共産党に加わった新参の党員であったとされています。一方、中国出身の作家ユン・チアンは、三反運動の当初の目的は横領の防止であり、約383万人の文民職員が厳しい尋問と審査にさらされ、拷問も行われたと述べています。

「五反」運動

1952年に提唱された「五反」運動は、主に都市部の資本家階級を対象とし、彼らの五つの不正行為に反対する運動でした。

1. 反行賄（賄賂しない）: 贈賄行為を取り締まりました。
2. 反偸税漏税（脱税しない）: 脱税行為の根絶を目指しました。
3. 反偸工減料（仕事の手抜き、原料ごまかしをしない）: 国家への納入品における不正を防ぎました。
4. 反盗騙国家財産（国家財産を盗まない）: 国家財産の横領や詐取を禁じました。
5. 反盗窃国家経済情報（国家経済情報の悪用をしない）: 国家の重要な経済情報を不正に利用することを戒めました。

ジョナサン・スペンスは、五反運動の対象基準が「ブルジョワジーであること」という曖昧なものであったことを指摘しています。

運動の経過と影響

三反五反運動の遂行にあたっては、相互告発が強力に奨励されました。公務員や労働者は、仲間の不正行為を当局に報告することを求められ、2万人以上の官僚と6千人の訓練を受けた労働者が告発のための「スパイ」として動員されました。メディアもこれを積極的に推奨し、例えば1951年後半の上海では1万5千人もの人々がプロパガンダ活動に従事したとされます。企業は自己批判文書の提出を強要され、中には1日に千通もの文書を作成する大手企業もありました。ある銅会社のオーナーは、当初は控えめな不正額を申告したものの、従業員からの圧力により、最終的に巨額の詐取を自白させられた事例も報告されています。

この運動は、中国政府が資本家階級を保護する姿勢を転換し、厳しく管理する意思を明確に示した出来事となりました。多額の罰金徴収や、罰金を払えない者からの借金の形での資産没収が行われましたが、これが国家財政を複雑化させた側面もありました。

また、運動に大量のリソースが費やされたため、経済活動にも深刻な影響が出ました。ユン・チアンによると、例えば天津市では卸売業の取引が半減し、銀行融資が滞る事態に陥ったといいます。さらに人道的な側面では、この運動による自殺者が少なくとも20万人に達したという指摘があります。自殺の方法によっては死体が確認できない場合、国外逃亡と見なされ、残された家族が迫害される事例もあったと伝えられています。

日本の政治学者・天児慧は、三反五反運動は厳しい試練ではあったものの、党や政府に対する国民の信頼を高め、社会の安定に貢献するとともに、商工業経営者を社会主義経済体制に統合する契機となった点で大きな意義があったと評価しています。

一方で、ユン・チアンは、こうした厳格な運動の最中においても、最高権力者である毛沢東だけは例外的な特権を享受していたと指摘しています。処刑された官僚の横領額の3倍にあたる巨額を投じて専用プールを作らせたり、好みの魚を生きたまま大量に運ばせたり、専用農場を開かせたり、若い女性たちを周囲に侍らせたりするなど、運動の精神とはかけ離れた生活を送っていたと記述しています。

三反五反運動は、中華人民共和国初期において、国家権力が社会の隅々にまで浸透し、政治的・経済的な統制を確立していく過程で重要な役割を果たした出来事でした。

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