三塩化クロム

塩化クロム（CrCl3）

概要

塩化クロムはクロムの三価化合物で、一般的には三塩化クロムや塩化クロム（III）と呼ばれています。化学式はCrCl3であり、無水物と六水和物の形態が存在します。この物質には他にも、二塩化クロム（CrCl2）や四塩化クロム（CrCl4）など、異なるバリエーションがあります。

物性と構造

無水の塩化クロムは強い紫色の結晶で、水にはほとんど溶けません。一方、六水和物であるCrCl3・6H2Oは錯体として知られ、さまざまな水和異性体を持っています。具体的には、次の三つの異性体が存在します：

• - [Cr(H2O)6]Cl3（紫色の固体）
• - [Cr(H2O)5Cl]・Cl2・H2O（淡緑色の固体）
• - [Cr(H2O)4Cl2]Cl・2H2O（暗緑色の固体）

通常、流通しているのは暗緑色の異性体です。三塩化クロムの結晶構造は層を形成し、CrCl6八面体単位を含んでいます。この結晶は金属間の結合を持たない螺旋転位を含んでおり、三ヨウ化クロムと同様の構造を持ちます。

化学的特性

三塩化クロムはHSAB則に従ったルイス酸として知られています。d3構造を持つ三価のクロムを含んでおり、このため配位子置換反応においては不活性です。ただし、少量の還元剤（亜鉛や塩酸など）を加えることで活性が向上し、二塩化クロムに還元しながら、そこで素早く配位子交換反応を行います。最終的には、三価クロム錯体と活性なCr（II）が得られ、全てのCr（III）が置換されるまで反応が進行します。

無水の三塩化クロムはほとんど水に溶けないにもかかわらず、還元剤の存在下ではゆっくりと溶解し、紫色の[Cr(H2O)6]3+イオンが形成されます。ピリジンを用いると、生成物は[CrCl3(C5H5N)3]となります。一般的に、配位数6のCr（III）錯体は八面体構造を取ります。

重合反応を通じて、塩化カリウムなどのアルカリ金属塩化物と共に反応すると、八面体型の[CrCl6]3−イオンを生成し、さらにCr2Cl9^3−等のイオン塩も生成します。

製法

無水三塩化クロムは、単体の高温で化合することにより製造できます。また、三酸化二クロムと塩素を炭素の存在下で反応させることによって、無水三塩化クロムを得ることも可能です。たとえば、以下の反応が考えられます：

Cr2O3 + 3C + 3Cl2 → 2CrCl3 + 3CO

さらに、三塩化クロム六水和物は、650°Cで四塩化炭素と反応するか、塩化チオニルによる脱水反応で無水塩化クロムが得られます。水和物は、金属クロムと塩酸を反応させることで得られます。

用途

無水三塩化クロムは有機金属化学において重要な原料であり、フェロセンに似たジフェニルクロムなどの有機クロム化合物合成にも利用されます。さらに、三塩化クロムは多くのクロム（III）錯体の出発物質として用いられます。

有機合成の過程では、CrCl3から還元されて生成したCrCl2が広く利用され、C-Cl結合をC-H結合に還元したり、アルデヒドと反応させてハロゲン化アルケンにすることができます。この反応では、通常三塩化クロムと水素化アルミニウムリチウムが2:1のモル比で用いられます。また、三塩化クロムのルイス酸性は、特定の反応を触媒するため、例えばニトロソ化合物をジエノフィルとして用いるディールスアルダー反応において重要な役割を果たします。

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塩化クロムはそのさまざまな性質から化学産業において重要な位置を占めており、多数の用途が見いだされています。

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