三宅タロー

三宅タローこと三宅多留次は、1881年に日本で生まれ、1935年にその生涯を終えた、明治から昭和初期にかけて活躍した稀有な武道家でありプロレスラーです。日本の伝統的な柔術を深く学び、後に柔道指導者として活動した後、海を渡り、特に20世紀初頭のイギリスにおける柔術の普及に多大な貢献を果たしました。さらに、彼はアメリカでプロレスのキャリアを積み、その歴史に名を刻んでいます。

若い頃、三宅は日本の武道に深く傾倒しました。柔術においては、不遷流の第四代宗家である田辺又右衛門のもとで厳しい修行を積みました。また、大阪で大東流柔術を創始したとされる半田弥太郎からも教えを受けています。これらの経験が、後の彼の武道家としての礎を築きました。

柔術家としての力量を認められた三宅は、1899年（明治32年）には奈良の学校で柔術を教える立場となりました。その2年後の1901年には、兵庫県の神戸にて警察の柔道師範という要職に任命されるなど、順調に指導者としての道を歩んでいました。しかし、1904年に発生したある乱闘事件に関わったことが原因で職を解かれ、この出来事が彼を異国へと向かわせるきっかけとなりました。彼は新たな活躍の場を求め、当時、日本の武道への関心が高まり始めていたイギリスの首都ロンドンへと渡りました。

ロンドンに到着した三宅は、現地のショーやミュージックホールの舞台で自身の柔術の技を披露する試合を重ねました。彼の卓越した技術は注目を集め、特に当時イギリスの柔術界で現役王者と称されていた谷幸雄との対戦は大きな話題となりました。この試合で三宅は谷を下し、その名を一躍知らしめました。その後、驚くべきことに三宅と谷は協力関係を築き、共にロンドンで柔術学校を開校し、柔術の普及に尽力しました。また、二人は共著で「The Game of Ju-jitsu」という解説書を出版し、ヨーロッパにおける柔術の理解と技術向上に貢献しました。

1908年頃からは、同じく海を渡って活動していた柔術家たち、特に同郷の上西貞一や、後のブラジリアン柔術の源流を作る前田光世らと共にヨーロッパ各地を巡業しました。この巡業中には、伝説的なインドのレスラー、グレート・ガマに挑戦するなど、様々なジャンルの猛者たちとの交流や対戦を経験しています。

1914年、第一次世界大戦が始まる直前に三宅は活動の場をアメリカ合衆国へと移しました。彼はシアトルを拠点に選び、ここでも柔術の学校を設立して指導にあたりました。アメリカ滞在中、三宅は当時の人気スポーツであったプロレスリングにも関心を持つようになります。1917年10月20日、彼はプロレスラーでありキャッチレスリングの強豪であったアド・サンテルとの異種格闘技戦に臨みました。三宅は果敢に立ち向かいましたが、サンテルの得意技であるハーフ・ネルソン・スラムを受けて惜しくも敗れました。この経験を通じてプロレスの魅力に惹きつけられた三宅は、本格的にプロレスラーとなることを決意します。彼は当時の著名なプロレスラー、エド・ルイス（「ザ・ストラングラー」として知られる）の指導を受けるようになり、プロレスラーとしてのキャリアをスタートさせました。トゥーツ・モントやクラレンス・エクランドといった実力者たちともリングで対戦するなど、レスラーとしても活動の幅を広げていきました。

アメリカでプロレスラーとして活躍していた三宅は、1928年にアメリカのレスラー3人を伴って日本へ帰国し、プロレスの巡業を企画しました。これは日本にプロレスを紹介しようという試みでしたが、当時の日本ではプロレスというものがほとんど認知されておらず、興行は観客が集まらず大失敗に終わってしまいました。失意のうちに三宅は再びアメリカへと戻ることになります。

その後も三宅の活動は続きました。1931年には、ハワイにおいて日系人の檀山流柔術家、識名盛夫（後のプロレスラー沖識名）をスカウトするなど、後進の育成にも関わっています。1932年には、50代という年齢ながら、ニューヨークの権威あるマディソン・スクエア・ガーデンのリングに上がるなど、その情熱は衰えることはありませんでした。

三宅タローは1935年に亡くなりました。彼の生涯は、日本の伝統武術を学び、指導者となり、そして海を渡って異国の地で柔術を広め、さらにはプロレスという新たな分野にも挑戦するという、波乱に満ちたものでした。特に20世紀初頭のイギリスやアメリカにおいて、日本の柔術やプロレスの存在を知らしめ、その後の発展の礎を築いた人物として、彼の功績は高く評価されるべきでしょう。彼はまさしく、海外における日本武道の開拓者の一人と言えます。

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