三木慶介

山岳写真家 三木慶介

日本の山岳写真史において、「三木時代」という言葉が生まれるほどの大きな足跡を残した写真家、三木慶介（みき けいすけ、1922-2016年）。その生涯は、壮大な山の景観とそこに挑む人々の営みを克明に、そして感動的に捉えた作品群によって彩られています。

三木慶介は、1922年に東京都両国で生を受けました。明治大学法学部で学びましたが、彼の情熱はやがて写真へと向けられます。特に山岳写真の世界に魅せられた三木は、写真雑誌の月例コンテストへの応募からキャリアをスタートさせました。この応募スタイルを通じて、彼の才能は瞬く間に開花し、短期間のうちに山岳写真界において独自の地位を確立。「三木時代」と呼ばれるようになるほどの存在感を放つようになったのです。

彼の作品は、国内はもとより国際的にも高い評価を受けました。1954年から『アサヒカメラ』誌の月例に応募を開始すると、その実力が認められ、1956年には同誌の優秀作家賞を受賞します。そして、三木の名を世界に知らしめたのが、イタリアで開催された世界国際山岳写真ビエンナーレ展での快挙でした。1959年、三木は作品「滑降」でこの権威ある展覧会の最優秀賞、ゴールデンカップに輝きます。これは日本人としては初めての受賞であり、山岳写真における日本の存在感を示す出来事となりました。「滑降」は、剣沢の広大な斜面を滑り降りるプロスキーヤー・冒険家の三浦雄一郎氏を捉えた、迫力に満ちた作品です。さらに、1964年には再び同ビエンナーレにおいて、作品「友を気遣う」で二度目の最優秀賞を受賞します。この作品は、厳冬期の谷川岳にある衝立岩に初登攀を試みる仲間たちの姿を写したもので、登山における連帯や人間ドラマを感じさせる一枚です。これらの国際的な評価に加え、1965年には富士フイルム優秀賞や山と渓谷社賞も受賞するなど、国内でも多くの栄誉に浴しました。1973年には、『カメラ毎日』創刊20周年を記念した別冊『写真家100人顔と作品』にもその名が連ねられるなど、日本を代表する写真家の一人として確固たる地位を築きました。

三木慶介の功績は、作品制作だけに留まりません。日本の山岳写真界の発展と後進の育成にも多大な貢献をしました。全日本山岳写真協会の理事長を務めた後、会長に就任。また、東京野歩路会の代表を経て顧問となり、長年にわたり指導者の立場から多くの若手写真家や登山愛好家を育てました。その指導は、単に技術だけでなく、山への畏敬の念や安全に対する意識といった精神的な側面にも及びました。

晩年も意欲的に活動を続けました。1995年にはNHKの番組「熟年の山旅」に5日間にわたり出演し、山の魅力や安全な登山の楽しみ方を紹介しました。また、作品集の刊行にも力を入れ、1997年には『登』を、2010年には代表作と同名の『滑降』を世に送り出しています。長年の功績が認められ、1997年には勲四等瑞宝章を受章しました。

三木慶介の捉えた山々は、単なる風景としてではなく、生命が息づく世界として、あるいは人々の挑戦の舞台として描かれています。東京都写真美術館には、彼の代表的な作品が複数収蔵されており、現在でも多くの人々に感動を与えています。収蔵されている主な作品には、以下のようなものがあります。

雲竜渓谷
南稜のテラス
三ノ窓
顔
ラッセル
雪稜登攀
* 雲わく滝谷

2016年に94歳で死去するまで、三木慶介は生涯を通じて山と写真に向き合い続けました。彼の遺した作品と、後進の指導を通じて培われた精神は、日本の山岳写真の礎として、今なお輝きを放っています。

もう一度検索