三河萬歳

三河万歳：愛知の伝統芸能

三河万歳は、愛知県を流れる矢作川流域周辺、旧三河国にあたる安城市、西尾市、豊川市小坂井町、額田郡幸田町に伝わる伝統芸能です。地域によって「別所万歳」「森下万歳」など様々な呼び名を持ち、古くから人々の生活に根付いてきました。

元々は正月の祝い事の際に演じられる芸能でしたが、現代では季節を問わず、慶事の際に披露されるなど、その様式は変化を遂げています。1995年（平成7年）12月26日には国の重要無形民俗文化財に指定され、その歴史的・文化的価値の高さが認められています。伝統芸能の継承を目的として、安城市や西尾市の学校においても、クラブ活動の一環として三河万歳が受け継がれています。

三河万歳の構成と様式

三河万歳は、基本的には「太夫（たゆう）」と「才蔵（さいぞう）」の2人1組によって演じられます。しかし、明治時代以降に取り入れられた尾張万歳系の演目では、太夫1人に対して才蔵が2～6人と、複数になるケースもあります。現在、各地の保存会によって演じられている三河万歳は、多くの場合、尾張系の演目を採り入れており、太夫1人に対して複数の才蔵という形式を取っています。ただし、西尾市に伝わる森下万歳は、伝統的な太夫と才蔵の2人1組という形式を維持しています。

衣装は、太夫は風折烏帽子に素襖（素袍）、才蔵は侍烏帽子か大黒頭巾に裁着袴（たっつけばかま）という装束です。太夫は扇子や舞扇を手に持ちます。江戸時代には徳川家康によって庇護を受けた歴史があり、江戸城や大名屋敷などでも演じられました。そのため、太夫は武士のような装束を許され、風折烏帽子に大紋、中啓（能楽で用いられる扇の一種）を使用するなど、格式の高い衣装を身に着けていたと言われています。才蔵も素襖に侍烏帽子、そして長い袴を着用するなど、格式高い装束が用いられていました。西尾の森下万歳は、この伝統的な装束で演じられています。

楽器は、基本的には才蔵が持つ小鼓のみを用います。しかし、尾張系の演目である「三曲万歳」などでは、三味線や胡弓、太鼓、拍子木などが加わることもあります。

三河万歳の起源と歴史

三河万歳の起源については、複数の説があります。安土桃山時代、国家の雇用人であった陰陽師が弾圧を受け、多くが尾張国に追いやられ、そこで「千秋万歳」を起こしたという説があります。この千秋万歳が尾張万歳となり、後の上方芸能、浄瑠璃、歌舞伎につながったという説です。また、豊臣秀吉の死後も、多くの陰陽師が尾張に留まり、その中から三河に万歳を伝えたという説もあります。

地域伝承によれば、別所万歳は室町時代の応仁の乱を逃れた熱田薬師寺の僧が、長谷部郷に移住し、祈祷として舞楽を奏したのが始まりとされています。森下万歳は、鎌倉時代中期に実相寺の開山が中国留学で習得した万歳楽を、亡命してきた南宋の官吏に伝えたのが始まりという伝説があります。幸田の三河万歳は、明治30年に西尾の森下万歳の太夫に才蔵として参加したことから伝わったものです。

明治時代以降は、徳川家の庇護がなくなったことや陰陽師の禁止などにより、三河万歳は衰退の危機に瀕しました。しかし、尾張万歳から娯楽性の高い演目を取り入れるなどして、その伝統は辛うじて受け継がれてきました。1887年以降は神道職となり、「天の岩戸開きの舞」などの演目が取り入れられました。第二次世界大戦後は、他の地域の万歳と同様に衰退しましたが、各地の万歳師による継承活動によって復活し、1995年には国の重要無形民俗文化財に指定されました。

三河万歳の主な演目

三河万歳には様々な演目があり、「御門開き」「三羽鶴の舞」「七草の舞」「天の岩戸開きの舞」などが有名です。

三河万歳の伝播と関連事項

三河万歳の系統に属する万歳は、愛知県三河地方以外にも存在し、会津万歳（福島県郡山市）、秋田万歳（秋田県秋田市）、阿蘭陀万才（長崎市、長崎くんちの奉納踊り）などが知られています。江戸時代には、陰陽道宗家である土御門家から免許状を受け、貢納料を納めることで江戸をはじめとする関東17カ国を巡回する権利を得ていました。また、江戸時代には日本橋に「才蔵市」という、万歳の才蔵を雇う市場が存在し、三河の太夫が下総の農民を雇うのが慣習でした。

三河万歳は、歴史と伝統を深く刻み込んだ、貴重な芸能です。その独特の様式や歴史的背景、そして現代における継承活動は、日本の伝統芸能を考える上で重要な意味を持っています。

もう一度検索