三津駅

三津駅（みつえき）

伊予鉄道高浜線に位置する三津駅は、愛媛県松山市三杉町、歴史ある三津浜地区の中心部にあります（駅番号はIY04）。この駅は単なる停留所ではなく、伊予鉄道が高浜線を開業した当初の終点であり、松山市の中心駅である古町駅や松山市駅と並んで、四国地方で最初の鉄道駅の一つとしてその歴史を刻んできました。一般的に「四国最初の駅」とされる丸亀駅などに先行して開業しており、その歴史は非常に古いと言えます。

文豪・夏目漱石の代表作『坊っちゃん』にも「三津停車場」として登場し、主人公の「坊っちゃん」が松山に到着した際に、ここから「マッチ箱のような汽車」と表現された列車に乗った情景が描かれています。これは、三津駅が明治時代の鉄道風景を伝える重要な場所であったことを示しています。

現在の三津駅は、伊予鉄道高浜線における主要駅の一つとして、衣山駅や古町駅と共に交通結節点としての役割を担っています。駅前広場が整備され、地域内を巡るループバスが乗り入れています。また、高浜線内で緊急事態が発生した場合などには、当駅または古町駅で列車が折り返し運転を行う際の拠点ともなります。

駅の構造は、地上駅として島式ホーム1面と単式ホーム1面を組み合わせた2面2線を有しており、駅員が配置されています。かつては2面3線の形態でしたが、現在の3代目駅舎の建て替え時に構造が変更されました。通常は島式ホームのみが使用され、単式ホームは三津浜花火大会など、利用者が大幅に増加する際に臨時で使用されています。山西駅方面には線路を渡るための渡り線が設置されており、これが緊急時の折り返し運転を可能にしています。

特筆すべきは、その駅舎の歴史と改築を巡る物語です。初代駅舎は開業から昭和初期にかけて存在したと推測されています。その後、昭和初期に建設されたとされる2代目駅舎は、老朽化が進み、耐震性やバリアフリー対応、そして駅前広場の整備といった観点から改築の必要性が生じました。この2代目駅舎は、アール・ヌーヴォー風のエントランスや半木骨造という独特のデザインで地域の人々に親しまれており、その保存を求める声が高まり、一時は2500人分の署名が集まるほどの住民運動に発展しました。

これを受けて、伊予鉄道と地元住民、松山市、学識経験者などが参加する「三津駅舎検討ワークショップ」が設置され、議論が重ねられました。その結果、建築基準法や駅前広場整備との兼ね合いから旧駅舎そのものの保存は困難であるものの、「現駅舎のイメージを残して改築する」という方向で合意が形成されました。

この合意に基づき、2008年4月に改良改築工事が開始され、翌2009年2月5日に3代目となる現在の新駅舎が完成しました。総工費は約2億800万円。新駅舎は鉄筋コンクリート造りの平屋（屋根は木造）で、建築面積は約120平方メートルと、旧駅舎よりは規模が縮小されています。しかしながら、保存を望む声に配慮し、旧駅舎で使用されていた木材の一部が再利用されたり、特徴的だったアール・ヌーヴォー風のエントランスデザインが取り入れられたりするなど、先代の駅舎の雰囲気を継承するデザインが採用されています。また、従来の西口に加え東口が新設され、トイレの水洗化や多目的トイレの設置など、全体的にバリアフリー化が図られ、利用しやすい駅として生まれ変わりました。

三津駅の利用状況を見ると、1998年時点では1日あたり約2,700人の乗降があり、松山市駅を除く高浜線内の駅としては最も利用者が多い駅でした。その後は減少傾向が続いていましたが、リニューアル工事が完了した2009年以降は、工事完成前の2007年と比較して利用者が増加に転じています。

駅周辺には、JR四国予讃線の三津浜駅が東へ約800メートル、三津浜港が西へ約1キロメートルの距離にあり、それぞれ地域内外へのアクセス拠点となっています。港からは周辺離島や本州へのフェリーが発着しています。また、松山市役所三津浜支所や消防署、図書館、公民館といった公共施設をはじめ、小学校、郵便局、銀行、スーパーマーケットなどの商業施設、さらには工場や歴史ある三津厳島神社など、生活に必要な施設や見どころが集積しており、地域の中心地としての賑わいを見せています。

3代目駅舎の完成と同時に整備された駅前広場にはバスロータリーが設けられ、新たに三津ループバスの運行が始まりました。このバスは駅を中心に病院や寺院、JR三津浜駅前などを結んでおり、地域内の移動手段として利便性を高めています。このループバス新設に伴い、従来高浜線に並行して運行されていたバス路線の一部が見直されるなど、地域の交通網の再編にも影響を与えています。

このように、三津駅は四国における鉄道黎明期から現代に至るまで、地域の玄関口として、また交通の要衝として重要な役割を果たし続けています。歴史と現代の機能が融合した駅舎は、地域住民の想いを反映したものであり、今後も松山市の生活を支える基盤であり続けるでしょう。

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