三矢重松

三矢重松：国学の泰斗、そしてその波瀾万丈の生涯

三矢重松(1872-1923)は、明治から大正期に活躍した国語学者、国文学者です。文学博士の学位を持ち、国学院大学教授として後進の指導にあたりました。その学風は壮烈で、「最後の国学者」と称されるほど、国学界に大きな足跡を残しました。特に、弟子である折口信夫への影響は計り知れません。

生い立ちと教育

山形県鶴岡市に生まれた三矢は、代々庄内藩に仕えた士族の家に育ちました。祖父は藩校の典学を務めた人物であったことから、幼少期から学問に触れる環境にありました。鶴岡朝暘学校、西田川郡中学校を経て山形県尋常中学校に進学。在学中は漢学や英語を学び、幅広い知識を習得しました。廃藩置県による家計の困窮を乗り越え、1889年には上京し、国学院の第一期生として入学。勉学に励みました。

激動の時代を生き抜く

1893年に国学院を卒業後、文部省大臣官房図書課に勤務。しかし、西暦紀元を用いた文部大臣の講演に反論したことから、筆禍により退官を余儀なくされます。その後は、開成中学校嘱託、岡山県高梁中学校、大阪府第五中学校と転々とし、教鞭を執りながら、自身の学問を深めていきました。大阪府第五中学校では、のちに著名な民俗学者となる折口信夫と出会います。この出会いが、両者の生涯に大きな影響を与えました。

その後、亦楽書院（のちの宏文学院）、外国語学校、國學院、東京高等師範学校などで講師を務め、1900年代に入ると國學院雑誌などの編集にも携わるようになり、学者としての地位を確立していきます。國學院大学国文学会会長、東京高等師範学校教授、そして國學院大学専任教授と、順調にキャリアを重ねていきます。1921年には、國學院大学に源氏物語全講会を創設し、講義を行いました。

研究内容と業績

三矢の研究は大きく分けて文法と古典文学の2つに分類できます。文法研究では、『高等日本文法』において、江戸時代の国文法と西洋文法を融合させ、現代語文法の視点を取り入れることで、後の国語学の発展に貢献しました。

古典文学研究では、国学の伝統的な研究方法を継承し、特に『源氏物語』を深く研究しました。その思想は、折口信夫を始めとする弟子たちに大きな影響を与えました。「源氏物語全講会」は、源氏物語研究を一般に広める上で重要な役割を果たしました。

晩年と死

1923年、胃癌と診断され、闘病生活を送る中、学位論文『古事記に於ける特殊なる訓法の研究』が認められ、文学博士号を取得。しかし、同年7月18日、胃腸病のため死去しました。享年51歳でした。

三矢重松の遺産

三矢重松は、近代国語学、国文学の発展に多大な貢献を果たしました。彼の業績は、弟子である折口信夫らを通して現代にも受け継がれ、日本の文化、学問に影響を与え続けています。彼の生涯は、激動の時代を生きた学者の生き様を示すものであり、後世に多くの示唆を与え続けることでしょう。彼の功績を称え、現在も各地に歌碑が建立され、その名と業績は人々の記憶に刻まれています。

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