三硫化二ヒ素

三硫化二ヒ素：特性、用途、安全性

三硫化二[ヒ素]は、雄黄という名でも知られる、鮮やかな黄色の無機化合物です。古来より顔料として利用され、近年ではその特異な性質から、光学材料や医療分野など、幅広い分野で注目を集めています。本稿では、三硫化二ヒ素の構造、合成法、反応性、そして様々な用途と安全性について詳しく解説します。

構造と性質

三硫化二ヒ素は、結晶質とアモルファスの二つの形態を持ちます。どちらも、ヒ素原子が硫黄原子と結合した三角錐形構造を基本単位としていますが、結晶質ではこれらの単位がシート状に規則正しく配列し、シート間はファンデルワールス力で弱く結合しています。一方、アモルファスは、不規則な結合構造を持ちます。結晶質は自然界の鉱物として産出し、アモルファスは人工的に合成されます。

三硫化二ヒ素は、P型半導体としての性質を示し、光照射によって相変化を起こすという興味深い性質も持ち合わせています。この光誘起相変化は、光学デバイスへの応用研究の基礎となっています。

合成と反応

三硫化二ヒ素は、ヒ素と硫黄を390℃で反応させることで合成できます。急速冷却するとアモルファス、ゆっくり冷却すると結晶質が得られます。また、水溶液中でヒ素イオンを含む溶液に硫化水素を作用させると、三硫化二ヒ素が沈殿物として生成します。この反応は、かつてヒ素の定量分析にも利用されていました。

三硫化二[ヒ素]]は、水にはほとんど溶けません。しかし、硫化物イオンを含むアルカリ性溶液には溶解し、[`AsS₃³⁻`]イオンを形成します。強アルカリ溶液では、[`AsS₃³⁻`]イオンと[`AsO₃³⁻`]イオンの混合物が生成します。空気中で加熱すると、酸化されて有毒な酸化物である五酸化二[[ヒ素]と二酸化硫黄(SO₂)を生成します。

用途

光学材料

アモルファスの三硫化二ヒ素は、赤外線光学材料として利用されます。620nmから11μmの波長範囲の光を透過するため、赤外線レンズや光学部品などに用いられます。高い屈折率と硬度も特徴で、フォトニック結晶の材料としても研究が進められています。特に近年は、三次元ナノ構造を作製するためのフォトレジストとして注目されています。

医薬品

三硫化二[ヒ素]]とその関連化合物である四硫化四[[ヒ素]は、急性前骨髄球性白血病の治療薬として研究されています。その作用機序は、三酸化二[ヒ素]と類似していると考えられています。

その他

古くから、顔料やなめし剤、青鉛筆の製造などにも利用されてきました。また、ヒ素還元細菌の存在を検出するための試験にも用いられています。

安全性

三硫化二ヒ素自体は、水に不溶性であるため毒性は低いとされています。しかし、古い試料には、より毒性の高い酸化ヒ素が含まれている可能性があるため、取り扱いには注意が必要です。

天然での存在

三硫化二ヒ素は、雄黄として、火山活動や熱水鉱脈などで他の硫化物鉱物とともに産出します。

まとめ

三硫化二ヒ素は、その特異な性質と多様な用途を持つ魅力的な化合物です。古来より利用されてきた歴史と、現代科学技術における新たな可能性を秘めた、重要な無機化合物と言えるでしょう。しかし、取り扱いには注意が必要であり、安全性を考慮した適切な使用方法を心がけるべきです。

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