三美神 (ルーベンス、ウィーン美術アカデミー)

『三美神』：ルーベンスとブリューゲルによる美の競演

ピーテル・パウル・ルーベンスの『三美神』（独: Die drei Grazien, 英: The Three Graces）は、1620年から1624年頃に制作された油彩画であり、バロック美術を代表する作品の一つです。この絵画は、ギリシア神話に登場する美と優雅さの象徴である三美神（カリス）を主題としています。ルーベンスは、この作品をヤン・ブリューゲル2世と共同で制作しており、それぞれの才能が融合した見事な仕上がりを見せています。

現在、『三美神』はウィーン美術アカデミー絵画館に所蔵されています。また、関連する素描がロンドンのコートールド美術館に、工房作のヴァリアントがストックホルムのスウェーデン国立美術館に所蔵されており、この作品が持つ多面的な魅力を物語っています。

作品の詳細

『三美神』では、三女神が森の中で横一列に並び、バラで満たされた籠を両手で掲げている様子が描かれています。彼女たちの肌は輝くように美しく、その姿はまるで季節を司るホーラー（時の女神）のようです。ルーベンスは、三美神を伝統的な向き合って輪になるポーズではなく、柱のように立つカリアティードとして描いています。このアイデアは、フランチェスコ・コロンナの『ポリフィロの愛の戦いの夢』の挿絵にすでに登場しており、ルーベンスはこれを自身の絵画に取り入れたと考えられます。

ルーベンスは、画面右の女神のポーズをねじり、鑑賞者に対して背中を向けさせることで、女神たちが絵画の空間に現れたような印象を与えています。また、枝と枝の間にカーテンを掛けることで、バラの花が咲き誇る空間を強調しています。

この作品は、ルーベンスの工房で分業によって制作されました。ルーベンス自身は女神の裸体と、左の幹、木の枝に掛けられた布のカーテンを担当し、バラの花、花かご、木々の枝葉、背景はヤン・ブリューゲル2世が描いたとされています。このような分業は当時珍しいことではなく、ルーベンスは他の才能ある画家と共作することで、作品に付加価値を与えていました。

制作の背景

『三美神』の制作経緯は完全には明らかになっていませんが、彫刻作品のデザインが関わっていると考えられています。1624年には、彫刻家のゲオルク・ペテルがルーベンスの家で、ルーベンスのデザインを基に3点の小彫刻を制作しました。そのうちの1点が『三美神』であり、女神たちのポーズは絵画版と非常に近いものでした。このことから、ルーベンスはゲオルクの彫刻のデザインに関わった時期に、この絵画を構想・制作したと推測されています。ゲオルクの彫刻は後に失われましたが、ブロンズの複製がボストン美術館に現存しています。

ルーベンスは、注文を受けて制作するだけでなく、聖書画や神話画をあらかじめ制作し、在庫として抱えていたとされています。そして、それらの作品をコレクターにまとめて売り込むこともありました。本作もまた、そのような経緯で制作された可能性があります。

作品の来歴

『三美神』は、1822年までオーストリアの外交官であり、美術コレクターであったアントン・フランツ・デ・パウラ・ランベルク＝シュプリンツェンシュタイン伯爵のコレクションに所属していました。伯爵の死後、他のコレクションと共にウィーン美術アカデミーに遺贈されました。

ヴァリアント

スウェーデン国立美術館に所蔵されている工房のヴァリアントは、18世紀までその記録を遡ることができます。1768年には宰相マグヌス・デ・ラ・ガーディエのコレクションとして、ストックホルム近郊のベンガルン城に保管されていました。その後、スウェーデン王室のコレクションに加わり、グスタフ3世死後のインベントリにも記載されています。1795年にはストックホルムの王立美術館に移され、1866年にスウェーデン国立美術館に収蔵されました。

ルーベンスは、この他にも複数の『三美神』を描いています。

[ルーベンスの三美神ギャラリー]

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参考文献

『ウィーン美術大学絵画館所蔵 ルーベンスとその時代展』毎日新聞社（2000年）

外部リンク

ウィーン美術アカデミー絵画館公式サイト, ピーテル・パウル・ルーベンス『三美神』
スウェーデン国立美術館公式サイト, ピーテル・パウル・ルーベンスの工房『三美神』

関連項目

三美神 (ルーベンス、プラド美術館)
* ヤン・ブリューゲル (子))

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