三美神 (ルーベンス、プラド美術館)

ピーテル・パウル・ルーベンス『三美神』

ピーテル・パウル・ルーベンスが1630年から1635年にかけて制作した油彩画『三美神』は、バロック美術を代表する傑作の一つです。この作品は、ギリシア神話に登場する3人の女神、アグライア、エウプロシュネ、タレイア（総称してカリス）を題材としています。ルーベンスは、依頼を受けて制作するのではなく、自身の芸術的衝動に従ってこの絵を描きました。その官能的で生命力に満ちた作風は、晩年のルーベンスの特徴をよく表しています。

現在、この作品はスペイン・マドリードのプラド美術館に所蔵されています。

作品の特徴

画面には、青空の下で輪になって踊る3人の女神が描かれています。彼女たちの肉体は柔らかく豊満で、互いに腕を取り、肩に手を添え、見つめ合っています。その表情や触れ合う様子からは、彼女たちの愛情が感じられます。画面の両端には木々と噴水が配置され、女神たちの頭上には花輪が飾られています。噴水には、豊穣の角（コルヌコピア）を抱えたキューピッドの像があり、そこから流れ出る水が背景の風景を潤しています。背景には、のどかな田園風景とシカの群れが描かれています。

ルーベンスは、この作品で古典的な三美神の彫刻の構図を取り入れています。15世紀にローマで発見されたヘレニズム時代の彫刻は、多くの芸術家にとって古典芸術の模範とされ、ルーベンスもその影響を受けました。彼は生涯で12回以上、油彩、素描、あるいはより大きな作品の一部として三美神を繰り返し描いています。古代彫刻では、3人の女神のうち中央の1人が後ろを向いて立っています。ルーベンスは、1620年から1624年頃には古代彫刻の構図を用いず、3人の女神を横一列に並べて描いていましたが、本作品では、中央の女神が背を向け、他の2人が輪になるように向きを変えています。

神話において、三美神はそれぞれ輝き（アグライア）、喜び（エウプロシュネ）、花（タレイア）を象徴しますが、この作品の三美神は、1630年に若いエレーヌ・フールマンと再婚したルーベンスの晩年の作品に見られる官能性、活力、喜びの具現化と解釈できます。この作品は、ルーベンスの卓越した画力を示しており、自由な筆運び、暖かい色彩、そして肉感的な表現は、見る者を魅了します。風景やシカの描写はやや大まかですが、女神たちの宝石は細部まで丁寧に描かれています。特に、左側の金髪の女神のモデルは、ルーベンスの妻であるエレーヌ・フールマンであると考えられており、作品と画家との結びつきを一層強めています。

作品の来歴

この作品は、1640年にルーベンスが死去するまで彼自身が所有していました。彼の死後、1645年にスペイン領ネーデルラント総督フェルナンド・デ・アウストリアを通して、フェリペ4世に売却されました。しかし、この作品は売却された25点のリストには含まれていないため、オークションで購入されたと考えられています。1666年には、マドリードのアルカサルの王の夏の避暑部屋で記録されており、その後、新王宮、王立サン・フェルナンド美術アカデミーを経て、1834年にプラド美術館の前身である王立美術館に収蔵されました。

ギャラリー

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脚注

[1] 『ウィーン美術大学絵画館所蔵 ルーベンスとその時代展』、毎日新聞社（2000年）

外部リンク

プラド美術館公式サイト, ルーベンスピーテル・パウル・『三美神』（スペイン語）
プラド美術館公式サイト, ルーベンスピーテル・パウル・『三美神』（英語）
YouTube, ピーテル・パウル・ルーベンス『三美神』（スペイン語）
YouTube, ピーテル・パウル・ルーベンス『三美神』（スペイン語）

関連項目

三美神 (ルーベンス、ウィーン美術アカデミー))
ニンフとサテュロス

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