三菱重工業長崎兵器製作所

三菱重工業長崎兵器製作所：長崎の軍需を担った工場の興亡

三菱重工業長崎兵器製作所は、1917年（大正6年）から1945年（昭和20年）まで長崎県長崎市に存在した三菱重工業の軍需工場でした。通称「三菱兵器」として知られ、工場の所在地から三菱兵器大橋工場、三菱兵器茂里町工場とも呼ばれていました。ここでは、長崎兵器製作所の設立から終戦までの歴史、そして戦後の軍民転換によって誕生した長崎精機製作所についても解説します。

設立の経緯

第一次世界大戦の勃発後、海軍の艦政本部長であった村上格一は、三菱合資会社の顧問であった武田秀雄に、民間資本による魚雷製作所の開設を提案しました。武田は三菱社長の岩崎久彌に相談し、海軍の支援を得て三菱による魚雷製作所の開設が決定しました。工場は長崎市茂里町の社有地に建設され、魚雷の発射試験場は長与村の大村湾沿岸部に設けられることになりました。1916年（大正5年）7月から長崎造船所の一工場として開設準備が始まり、1917年（大正6年）3月10日に、日本で唯一の民間による魚雷の研究・生産拠点として長崎造船所から独立し、長崎兵器製作所が発足しました。

戦時下の拡大と終焉

1933年（昭和8年）以降、海軍からの度重なる増産要求に応じる形で工場は拡張を続け、1942年（昭和17年）には市内北部の大橋町に大規模な工場が完成しました。1943年（昭和18年）には、日本で初めて水加ヒドラジンを高濃度の過酸化水素で分解させる液体推薬の開発に成功。翌年の1944年（昭和19年）11月には、T液（過酸化水素）とⅭ液（ヒドラジン）を空気圧によってぶつける燃焼実験にも成功しました。終戦直前の1945年（昭和20年）8月には、従業員数は17,793名、月間の魚雷生産数は210本に達しましたが、8月9日の長崎市への原子爆弾投下により、施設・人員ともに甚大な被害を受け、生産能力をほぼ喪失し、終戦後の同年11月15日付で閉鎖されました。

長崎精機製作所への転換

長崎兵器製作所の閉鎖後、長崎造船所内に臨時の整理事務所が設置され、残存従業員も同所へ転籍しました。従業員数は大幅に削減されましたが、残った従業員は機械設備の保全や施設の維持補修に尽力しました。整理事務所は、民需品の生産で軍民転換を図り、1946年11月15日付で長崎精機製作所として再発足しました。鉄道部品や衡器、船舶部品などを生産しましたが、経営状態は厳しく、1951年（昭和26年）7月1日付で長崎造船所に統合されました。

工場と施設

茂里町工場：魚雷の生産・組立工場として開設。潜水艦向けの九五式魚雷を生産。
堂崎工場：魚雷の発射・調整試験場として開設。大村湾沿岸部に位置。
大橋工場：海軍からの増産要求に応えるために建設。航空機搭載用の九一式魚雷や防雷具などを生産。

原爆投下により両工場は大きな被害を受けましたが、一部は復旧されました。長崎造船所との合併後、両工場は閉鎖され、茂里町工場跡地には長崎市中部下水処理場が、大橋工場跡地には長崎大学の文教キャンパスが設置されました。

原爆による被害

長崎兵器製作所では、原爆により多くの犠牲者が出ました。爆心地に近い茂里町工場と大橋工場は壊滅的な被害を受け、多くの従業員や動員学徒が亡くなりました。物的被害も甚大で、工場設備や建物が破壊されました。

人的被害:
死者：2,273名
負傷者：5,679名

物的被害:
大橋工場・本部：全壊
茂里町工場：全壊半焼
疎開工場（市立商業学校）：全焼
疎開事務所：全焼
寮：全焼
* 工作機械等被害：710台

慰霊碑と遺構

現在、旧大橋工場敷地内には原爆供養塔が建立され、原爆犠牲者の慰霊が行われています。また、白鳥公園には、三菱兵器に動員され爆死した学徒を偲ぶ追悼碑が建てられています。旧大橋工場正門近くには、用地買収の際に建てられたコンクリート製の標柱が残されています。

三菱重工業長崎兵器製作所は、日本の軍需産業の一翼を担い、長崎の近代史に大きな足跡を残しました。原爆の惨禍を乗り越え、戦後の復興に尽力した人々の記憶は、今もなお語り継がれています。

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