三蔵火事

三蔵火事（さんぞうかじ）

三蔵火事（さんぞうかじ）は、江戸時代の享保13年（1728年）、旧暦の3月27日に、現在の新潟県長岡市にあたる越後長岡藩の城下町で発生した大規模な火災です。この火災は、長岡藩の歴史上、最大の被害をもたらした火事として記録されています。炎は瞬く間に広がり、長岡城とその周辺の城下町の大部分を灰燼に帰しました。

火災の発生と被害

火災は、享保13年3月27日の午後5時頃、長岡城下の柳原町から発生しました。出火の原因は放火でした。記録によると、三蔵という人物が、雪駄（せった）を巡るいさかいから、門左衛門という人物の自宅に火をつけたことが発端とされています。当時の乾燥した気候と、強風にあおられた火は、あっという間に周囲に燃え広がり、城下町をなめ尽くしていきました。

火の勢いは凄まじく、武家屋敷278棟、足軽屋敷12棟、町家1,251棟が全焼しました。また、城下にあった寺院8ヶ寺と神社1社も焼失しました。さらに、強風に乗った火の粉は、田畑を隔てた今朝白町（けさじろちょう）にも飛び火し、被害地域を拡大させました。長岡藩の中心であった長岡城も、本丸から外側の曲輪（くるわ）に至るまで、城郭全体が完全に焼失するという壊滅的な被害を受けました。

火災は翌日の3月28日の朝になってようやく鎮火しました。火付けを行った三蔵は捕らえられ、その罪により火刑に処せられたと伝えられています。

被害拡大の地理的背景

被害がこれほどまでに拡大した背景には、地理的な要因も大きく関わっていました。長岡城下は、西や南西の方角から吹き下ろす「米山颪（よねやまおろし）」と呼ばれる猛烈な突風に見舞われることがしばしばありました。出火元の柳原町は、先手町や同心町といった地域とともに、特にこの米山颪の影響を受けやすい場所に位置しており、かねてから火災発生時には延焼しやすい、警戒すべき地域と認識されていました。この地理的な条件と、放火という人為的な要因、そして折からの強風が重なったことが、長岡藩史上最大という破滅的な規模の火災を引き起こした要因と言えます。

藩への影響

この未曽有の大火災は、長岡藩に深刻な影響を残しました。最も大きな課題となったのは、失われた長岡城の再建でした。藩は幕府から7,000両という巨額の資金を借り入れて再建に着手しましたが、その道のりは長く、城が完全に復旧したのは宝暦4年（1754年）のことでした。実に26年もの歳月を要しました。

また、この火災は、藩の財政を一層悪化させました。長岡藩は火災以前から既に財政難に苦しんでいましたが、城や城下町の復旧費用、罹災した領民への対応などが重なり、財政状況は極めて厳しいものとなりました。藩は財政再建のため、藩士の禄高（給与）の一部を藩に返上させる「半知借り上げ」という措置を実施しました。さらに、藩士の子息、特に次男以下の者を新たに藩士として召し抱えることを禁じる通達を出すなど、厳しい倹約策や人員削減策を講じざるを得なくなりました。

三蔵火事は、単なる火災としてだけでなく、その後の長岡藩の財政、藩政、さらには城郭構造にも長期にわたる影響を与えた歴史的な出来事として、今日の長岡市にその名を残しています。

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