三面等価の原則
三面等価の原則は、マクロ経済学において国民経済全体の活動を理解するための根幹をなす考え方です。この原則は、ある国で一定期間内に生み出された付加価値の総計である国内総生産（GDP）を、生産、分配、支出という三つの異なる角度から捉えても、その総額は常に等しくなることを示しています。これは、経済の循環を示す基本的な構造であり、日本の経済学者、都留重人氏によって考案・命名されました。
生産面から見たGDPは、国内の様々な産業や経済主体が一定期間（通常は1年間または四半期）に生み出した付加価値の合計を指します。付加価値とは、個々の生産活動によって新たに加えられた価値であり、生産された財・サービスの総額（生産総額）から、その生産に要した原材料や中間製品など、他の生産者から購入した財・サービス（中間投入）の費用を差し引くことで算出されます。これは、その国の経済活動によって「新しく生み出された」価値のみを捉えるためです。国内で生み出された価値のみを計上するため、海外からの輸入品は中間投入の一部として差し引かれます。各産業部門で生み出された付加価値を合計することで算出される、これが生産面から見たGDPです。
生産活動によって生み出された付加価値は、必ず何らかの形で経済主体に所得として分配されます。分配面から見たGDPは、この所得の総額として捉えられます。生産面で捉えられた付加価値は、労働への対価としての賃金や給与（雇用者報酬）、資本や土地への対価としての利子や地代（財産所得）、企業の利益（営業余剰・混合所得）、そして政府への税金（間接税から補助金を差し引いたもの）などの形で、余すことなく分配されます。生産によって生まれた価値は、家計、企業、政府といった経済主体に最終的に帰属するため、生産面で計算された付加価値の総額と、所得として分配された総額は理論上等しくなります。これは、「生産＝所得」という関係を示しています。
分配された所得は、最終的に財やサービスの購入、あるいは将来のための投資といった支出として使われます。支出面から見たGDPは、国内で生産された財やサービスに対する最終的な需要の総額を示し、国内総支出（GDE）とも呼ばれます。これは、「所得＝支出」という関係に基づいています。主な構成要素は以下の通りです。
民間最終消費支出（C）：家計が財やサービスを購入するために使ったお金。
政府最終消費支出（G）：政府が公共サービスを提供するために使ったお金。
総固定資本形成（I）：企業が工場や機械などの生産設備に投資したり、住宅が建設されたりする費用（設備投資、住宅投資）。
在庫品増加：企業が保有する在庫の増減分。これも将来の生産や販売に向けた一種の投資とみなされます。
* 財・サービスの輸出入（X-M、純輸出）：国内で生産されて海外に売られたもの（輸出X）から、海外で生産されて国内で買われたもの（輸入M）を差し引いたもの。輸出は国内生産物に対する海外からの需要、輸入は海外生産物に対する国内需要を表します。
これらの支出を合計することで、国内で生産された財・サービスがどのように最終需要として吸収されたかが把握でき、この合計値も理論上、生産面・分配面から見たGDPと等しくなります。
生産された価値は必ず所得として分配され、その所得は最終的に支出として使われる（あるいは貯蓄され、それが投資という支出に回る）という経済の基本的な循環があるため、理論上、GDPは生産、分配、支出のいずれの側面から計測しても等しくなるのです。
ただし、現実の国民経済計算統計では、理論通りに完全に三面が一致するとは限りません。例えば、生産されたものが全て計画通りに販売されるわけではなく、売れ残り（意図しない在庫増加）が生じることもあります。しかし、統計上は、意図した在庫投資だけでなく、売れ残った在庫も「在庫品増加」として支出（投資）に含めることで、形式的に生産と支出を一致させています。また、統計を作成する過程で生じる推計上の誤差（誤差脱漏）を調整するために、「統計上の不突合」という項目を設けて、形式的に三面を一致させています。したがって、統計上の数値が三面等価を示しているのは、これらの統計的な処理が行われているためであり、現実の需給が完全に一致していることを直接的に意味するわけではない点には注意が必要です。特に在庫品増加の項目を見る際には、それが意図した投資なのか、あるいは売れ残りによるものなのかを見極めることが、実際の景気動向を判断する上で重要となる場合があります。
GDPの統計には、その時点の市場価格で評価する名目GDPと、物価変動の影響を取り除いて生産数量の変化を示す実質GDPがあります。名目においては、GDP、GDE（国内総支出）、そしてGDI（国内総所得）は常に等しくなります（名目GDP = 名目GDE = 名目GDI）。
一方、実質値で見た場合、実質GDPと実質GDEは等しいものの、実質GDIとは必ずしも一致しません。実質GDIは、国内で生み出された実質的な所得、つまり実質GDPに加えて、海外との貿易における交易条件（輸出品と輸入品の価格比率）の変化による購買力の変動（交易利得・損失）を加味した概念です。交易条件が改善すれば、同じ量の生産物でより多くの輸入品が買えるようになり実質的な所得が増加するため、実質GDIは実質GDPよりも大きくなります。逆に交易条件が悪化すれば小さくなります。この関係は、「実質GDP + 交易利得・損失 = 実質GDI」という恒等式で表されます。
三面等価の原則は、これら名目、実質、GDIといった国民経済計算の主要な概念間の関係性を理解する上でも基本的なフレームワークを提供しています。
生産面から見たGDP
生産面から見たGDPは、国内の様々な産業や経済主体が一定期間（通常は1年間または四半期）に生み出した付加価値の合計を指します。付加価値とは、個々の生産活動によって新たに加えられた価値であり、生産された財・サービスの総額（生産総額）から、その生産に要した原材料や中間製品など、他の生産者から購入した財・サービス（中間投入）の費用を差し引くことで算出されます。これは、その国の経済活動によって「新しく生み出された」価値のみを捉えるためです。国内で生み出された価値のみを計上するため、海外からの輸入品は中間投入の一部として差し引かれます。各産業部門で生み出された付加価値を合計することで算出される、これが生産面から見たGDPです。
分配面から見たGDP
生産活動によって生み出された付加価値は、必ず何らかの形で経済主体に所得として分配されます。分配面から見たGDPは、この所得の総額として捉えられます。生産面で捉えられた付加価値は、労働への対価としての賃金や給与（雇用者報酬）、資本や土地への対価としての利子や地代（財産所得）、企業の利益（営業余剰・混合所得）、そして政府への税金（間接税から補助金を差し引いたもの）などの形で、余すことなく分配されます。生産によって生まれた価値は、家計、企業、政府といった経済主体に最終的に帰属するため、生産面で計算された付加価値の総額と、所得として分配された総額は理論上等しくなります。これは、「生産＝所得」という関係を示しています。
支出面から見たGDP
分配された所得は、最終的に財やサービスの購入、あるいは将来のための投資といった支出として使われます。支出面から見たGDPは、国内で生産された財やサービスに対する最終的な需要の総額を示し、国内総支出（GDE）とも呼ばれます。これは、「所得＝支出」という関係に基づいています。主な構成要素は以下の通りです。
民間最終消費支出（C）：家計が財やサービスを購入するために使ったお金。
政府最終消費支出（G）：政府が公共サービスを提供するために使ったお金。
総固定資本形成（I）：企業が工場や機械などの生産設備に投資したり、住宅が建設されたりする費用（設備投資、住宅投資）。
在庫品増加：企業が保有する在庫の増減分。これも将来の生産や販売に向けた一種の投資とみなされます。
* 財・サービスの輸出入（X-M、純輸出）：国内で生産されて海外に売られたもの（輸出X）から、海外で生産されて国内で買われたもの（輸入M）を差し引いたもの。輸出は国内生産物に対する海外からの需要、輸入は海外生産物に対する国内需要を表します。
これらの支出を合計することで、国内で生産された財・サービスがどのように最終需要として吸収されたかが把握でき、この合計値も理論上、生産面・分配面から見たGDPと等しくなります。
なぜ三面は等しいのか
生産された価値は必ず所得として分配され、その所得は最終的に支出として使われる（あるいは貯蓄され、それが投資という支出に回る）という経済の基本的な循環があるため、理論上、GDPは生産、分配、支出のいずれの側面から計測しても等しくなるのです。
現実の統計における扱い
ただし、現実の国民経済計算統計では、理論通りに完全に三面が一致するとは限りません。例えば、生産されたものが全て計画通りに販売されるわけではなく、売れ残り（意図しない在庫増加）が生じることもあります。しかし、統計上は、意図した在庫投資だけでなく、売れ残った在庫も「在庫品増加」として支出（投資）に含めることで、形式的に生産と支出を一致させています。また、統計を作成する過程で生じる推計上の誤差（誤差脱漏）を調整するために、「統計上の不突合」という項目を設けて、形式的に三面を一致させています。したがって、統計上の数値が三面等価を示しているのは、これらの統計的な処理が行われているためであり、現実の需給が完全に一致していることを直接的に意味するわけではない点には注意が必要です。特に在庫品増加の項目を見る際には、それが意図した投資なのか、あるいは売れ残りによるものなのかを見極めることが、実際の景気動向を判断する上で重要となる場合があります。
名目値、実質値、そしてGDI
GDPの統計には、その時点の市場価格で評価する名目GDPと、物価変動の影響を取り除いて生産数量の変化を示す実質GDPがあります。名目においては、GDP、GDE（国内総支出）、そしてGDI（国内総所得）は常に等しくなります（名目GDP = 名目GDE = 名目GDI）。
一方、実質値で見た場合、実質GDPと実質GDEは等しいものの、実質GDIとは必ずしも一致しません。実質GDIは、国内で生み出された実質的な所得、つまり実質GDPに加えて、海外との貿易における交易条件（輸出品と輸入品の価格比率）の変化による購買力の変動（交易利得・損失）を加味した概念です。交易条件が改善すれば、同じ量の生産物でより多くの輸入品が買えるようになり実質的な所得が増加するため、実質GDIは実質GDPよりも大きくなります。逆に交易条件が悪化すれば小さくなります。この関係は、「実質GDP + 交易利得・損失 = 実質GDI」という恒等式で表されます。
三面等価の原則は、これら名目、実質、GDIといった国民経済計算の主要な概念間の関係性を理解する上でも基本的なフレームワークを提供しています。
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