上原良司

上原良司：自由主義を貫いた特攻隊員の生涯

上原良司（1922年9月27日 - 1945年5月11日）は、大日本帝国陸軍の軍人であり、陸軍特別攻撃隊第56振武隊の隊員として、22歳という若さで沖縄戦線に散りました。

生い立ちと自由主義との出会い

長野県に生まれた上原は、医師の家庭で育ちました。比較的裕福な家庭環境は、彼に文化的な生活を送る余裕を与え、音楽や文芸に親しむ機会を与えました。松本中学校時代には自治の精神に触れ、慶應義塾大学に進学後、イタリアの哲学者ベネデット・クローチェの思想に傾倒します。クローチェはファシズムに反対し、自由の尊さを訴えた人物であり、上原の思想形成に大きな影響を与えました。特に羽仁五郎の『クロォチェ』は愛読書となり、彼の自由主義思想の礎となりました。

学徒出陣と軍隊生活

太平洋戦争の開戦当初、上原は周囲の学生と同様に戦果に沸き立ちましたが、学徒出陣により一転、軍隊生活を送ることになります。しかし、そこで体験したのは、自由とはかけ離れた厳格な階級制度と理不尽な暴力でした。上原は、軍隊内で「自由主義思想」に基づく自らの考えを主張し続けました。上官への批判も辞さず、修養反省録には「教育隊ニ人格者少ナキヲ遺憾トスル」と書き、上官を激怒させることもしばしばでした。それでも彼は、クローチェの言葉を引用し、「自由主義」の勝利を信じ続けました。

特攻への志願と遺書

1944年、上原は熊谷陸軍飛行学校を卒業し、特攻隊員として知覧基地に配属されます。故郷への最後の帰郷の際、彼は親友に「死地に赴くのに喜んで志願する者は一人だっていない」と心情を吐露する一方で、「日本は敗れる」と予見しつつも、「日本のために命を捧げる」決意を語りました。

上原が書き残した遺書は、彼の思想を最もよく表しています。彼は自らを「自由主義者」と規定し、国家主義や権力主義を批判しました。しかし、特攻隊員に選ばれたことを光栄に感じていると述べるなど、複雑な心情を吐露しています。遺書は戦後、『きけ わだつみのこえ|きけ_わだつみのこえ』に収録され、多くの人々に読まれました。

沖縄への出撃と戦死

1945年5月11日、上原は沖縄戦線に出撃し、22歳という若さで戦死しました。アメリカ軍の記録によれば、彼の乗機は駆逐艦「エヴァンズ」への攻撃に参加した可能性が高いとされています。彼の遺体は発見されず、沖縄の海に眠っていると考えられています。

死後

上原の死後、彼の遺書は多くの人々に読まれ、その思想は議論を呼びました。彼は、国家主義を批判する一方で、祖国への愛を捨てなかった複雑な人物として捉えられています。彼の遺書は、戦後日本の思想に大きな影響を与え、平和への願いを込めたメッセージとして、今もなお多くの人々に読み継がれています。2006年には、故郷の池田町に記念碑が建立され、彼の遺志が伝えられています。

上原良司の生涯は、戦争という極限状態の中で、自由と愛国心の間で葛藤した一人の若者の姿を鮮やかに描き出しています。彼の遺した言葉は、現代に生きる私たちにとっても、平和と自由の尊さを改めて認識する機会を与えてくれるでしょう。

参考資料

上原良司『あゝ祖国よ恋人よ きけわだつみのこえ 上原良司』信濃毎日新聞社、2005年
高木俊朗『遺族―戦歿学徒兵の日記をめぐって』出版協同社、1957年
押尾一彦『特別攻撃隊の記録 陸軍編』光人社、2005年
参考文献に記載されているその他の書籍

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