上屋抽梯

上屋抽梯（じょうおくちゅうてい）

三十六計の第二十八計である上屋抽梯は、「屋根に上げて梯子を外す」という意味を持ちます。これは、敵をある状況まで誘導した後、そこから抜け出す手段を奪い、自滅へと追い込む計略です。

計略の核心

この計略の核心は、敵を油断させ、自ら行動を起こさせることにあります。甘い言葉や利益で敵を誘い込み、あたかもそれが有利であるかのように錯覚させます。そして、敵がその状況に深く入り込んだところで、援助や補給を断ち、逃げ道を塞ぎます。敵は進むことも退くこともできなくなり、自傷行為に及んだり、策を仕掛けた側からの攻撃を受け、損害を被ることになります。

敵に実力以上の行動をさせることが重要であり、そのためには、敵が「梯子」に乗りやすい状況をあらかじめ作っておく必要があります。つまり、敵が容易に罠に飛び込めるように、魅力的な条件や偽りの情報を提示するのです。策を仕掛ける側が積極的に「梯子」をかけてやるか、「梯子」があるとそれとなく示唆することで、敵は疑うことなく罠へと足を踏み入れます。

日本の慣用句との関連

日本語の慣用句である「梯子を外す」「梯子を外される」は、この上屋抽梯の計に由来するとされています。これは、頼りにしていたものが突然失われ、窮地に陥る状況を表しており、上屋抽梯の計の本質を的確に表現しています。

事例：後燕の成立

前燕の慕容垂らは、かつて敗戦により前秦の苻堅の配下となりました。しかし、慕容垂は苻堅を巧みな弁舌でそそのかし、東晋への侵攻を促しました。苻堅はこれに乗り、大軍を率いて東晋へ侵攻しましたが、淝水の戦い（紀元383年）で東晋軍に大敗を喫しました。その隙に乗じて慕容垂は再び勢力を拡大し、独立を果たして後燕を建国しました。

この事例では、慕容垂らが苻堅に「梯子」をかけ、東晋攻撃という危険な道へと誘導しました。そして、苻堅が戦に敗れた隙に乗じて、自らの目的を達成したのです。これはまさに、上屋抽梯の計が成功した典型的な例と言えるでしょう。

まとめ

上屋抽梯は、敵を欺き、自滅へと導く狡猾な計略です。しかし、この計略を実行するには、周到な準備と敵の心理を巧みに操る手腕が求められます。また、状況を冷静に分析し、適切なタイミングで「梯子」を外すことが重要です。この計略は、単なる欺瞞ではなく、敵の力を利用して自らの利益を最大化する、高度な戦略的思考の表れと言えるでしょう。

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