上田正昭

上田正昭：日本古代史研究の巨人、そして多才な人物像

上田正昭（1927-2016）は、日本の歴史学者、歌人、そして小幡神社宮司という、多様な顔を持つ稀有な人物でした。日本古代史研究における第一人者として知られ、その業績は日本のみならず、東アジアの歴史研究にも大きな影響を与えました。本稿では、上田氏の生涯、学問、そして人物像について、詳細に見ていきます。

生い立ちと学問への道

兵庫県豊岡市出身の上田氏は、中学生の頃に京都府亀岡市にある小幡神社の社家である上田家の養子となりました。この経験は、後の氏の神社宮司としての活動、そして日本文化への深い理解に繋がったことは想像に難くありません。

若い頃、発売禁止となっていた津田左右吉の『古事記及び日本書紀の新研究』に触れたことが、上田氏の研究人生の転機となりました。学校で習う歴史観とは異なる、学問的な歴史研究への衝撃を受けた氏は、國學院大學専門部に入学、折口信夫らに師事します。太平洋戦争中は学徒動員で働きながらも、学問への探究心は尽きませんでした。

戦後、西田直二郎の総合的な文化史研究に感銘を受けた上田氏は、京都大学文学部史学科に入学。卒業論文では「日本古代史に於ける氏族系譜の成立に就いて」というテーマに取り組みました。西田直二郎の指導を受ける機会は得られませんでしたが、その思想は氏の研究姿勢に大きな影響を与えたと考えられます。

研究者としての軌跡

大学卒業後は高等学校教員を経て、京都大学教養部助教授、教授を歴任。教養部長、京都大学埋蔵文化財研究センター長なども務め、京都大学を代表する研究者の一人として活躍しました。その後、大阪女子大学教授、学長も務め、後進の育成にも力を注ぎました。

上田氏の研究の特徴は、神話学や民俗学、さらには東アジアという広い視野から日本古代史を考察したこと、そして歴史的事実に基づいた厳格な研究姿勢です。「渡来人」という用語が広く学術用語として用いられるようになったのも、氏の研究成果によるところが大きいといえます。

しかし、この研究成果は、必ずしもすべてを肯定的に受け入れられたわけではありません。特に「渡来人」の語を用いたことによって、右翼団体からの脅迫を受けるなど、学問的信念を貫く上での困難も経験しています。

日韓関係と歴史認識

上田氏は、日韓関係にも深い関心を持ち、歴史認識に関する発言も数多く行いました。明仁天皇（上皇）の「桓武天皇の生母が百済の武寧王の子孫である」という発言についても、既に以前からその可能性を指摘していた人物でした。

また、竹島問題や朝鮮学校への支援など、歴史認識や社会問題に関わる発言は、常に論争を巻き起こすものでしたが、氏自身の信念に基づいた、一貫した姿勢を示していました。韓国の国立中央博物館での発表や、朝鮮語との関連性の指摘など、多角的な視点からの歴史研究は、現在においても議論を呼ぶものであり、歴史学の新しい地平を切り開こうとした氏の一面を示しています。

多様な交遊関係と多彩な活動

上田氏は、学界内外を問わず、多くの著名な人物と交流を持っていました。梅棹忠夫、梅原猛、湯川秀樹、松本清張、司馬遼太郎など、各界の第一人者たちとの親交は、氏の幅広い知識と人間性を物語っています。これらの交遊関係は、氏の研究活動にも良い影響を与えたことは疑いありません。また、歌人としても活動し、2001年には歌会始の召人を務めました。

膨大な著作と多大な貢献

上田氏の著作は、日本古代史研究の枠を超え、広く日本文化や東アジア文化をテーマにしたものまで多岐に渡ります。専門書のみならず、一般向けに分かりやすく書かれた書籍も多く、多くの人に古代史への関心を高め、理解を深める上で大きな貢献をしました。

上田正昭という人物は、単なる歴史学者という枠に収まらない、多才で、そして社会に大きな影響を与えた人物でした。氏の生涯と業績は、これからも多くの人に学び、そして考えさせられるものとなるでしょう。

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