上田蚕糸専門学校 (旧制)

上田蚕糸専門学校

上田蚕糸専門学校（うえださんしせんもんがっこう）は、1910年（明治43年）に長野県上田町（現在の長野県上田市）に設立された、旧制の専門教育機関です。明治時代末期、国内の主要産業であった養蚕業と製糸業の近代化を推進するため、この分野に特化した高等教育を行う機関として、日本で初めて開設されました。広義には高等農林学校や高等工業学校に類するものとして位置づけられます。

設立までの経緯

本校の設置は、長野県の強い要望から始まりました。1906年12月、長野県会は高等工業学校の設置に関する意見書を可決し、政府に上申しました。これに応える形で、翌1907年には第24回帝国議会において、蚕糸業に関わる専門学校を長野県に設ける建議が可決されます。この建議を受け、上田町だけでなく、松本市、長野市、諏訪地域が設置候補地として名乗りを上げ、誘致合戦が繰り広げられました。最終的に、1908年5月の文部省による視察を経て、上田町常入（現在の常田）の地が選定されました。長野県会は学校建設のために約30万円の寄附を可決し、設立準備は着々と進められました。1908年12月には蚕糸専門学校創立委員会が設置され、1909年9月には校舎の起工式が執り行われました。

学校生活と教育内容

1910年3月26日の勅令により、上田蚕糸専門学校の設置が正式に決定され、同年12月には学則が公布されました。当初は修業年限3年の本科に、養蚕科と製糸科の2科が設けられました。1911年4月には最初の始業式と入学宣誓式が行われ、学生たちは農場での桑園開墾作業にも従事するなど、実践的な学びも重視されました。その後、学科は拡充され、1919年5月には製糸科から独立する形で絹糸紡績科が、1940年には繊維化学科が、さらに1944年には繊維農業科が本科に増設されました。1931年には高等女学校卒業者を対象とした2年制の製糸教婦養成科（後に製糸教婦科と改称）も設置され、指導者の育成も行われました。

学校施設も整備が進み、1915年1月には寄宿舎（後に「修己寮」と命名）が完成し、原則として全寮制が導入されました。学生生活の中では、1918年2月に養蚕科教授の転任問題を発端とした同盟休校が発生するなど、学生の意思表示の動きも見られました。一方で、学校の象徴となる校歌『御国の為にますらをが』（1911年制定）や校友会歌『大いなるかな浅間山』（1937年制定）も生まれました。また、1919年7月には当時の皇太子（後の昭和天皇）が学校を訪問され、ヒマラヤスギを植樹されています。菅平高原には庇宇亭（ヒュッテ）が建設され、千曲会館も1935年に竣工するなど、教育・研究活動を支える環境が整えられました。

上田繊維専門学校への改称と新制大学への移行

第二次世界大戦中の1944年4月、学校は上田繊維専門学校（略称：上田繊専）と改称されました。これに伴い学科構成も改組され、養蚕科と製糸科が統合されて蚕糸科となり、絹糸紡績科は紡織科に、繊維化学科はそのまま維持され、繊維農業科が新設されました。終戦後、学制改革の波が押し寄せると、学校は新制大学への昇格を目指す動きを活発化させます。1947年には大学昇格期成同盟会が発足し、単独での昇格を視野に入れつつ、東京、京都の繊維専門学校とも連携して運動を進めました。同年10月には、昭和天皇が再び学校を視察されています。

しかし、新制大学の設置計画の中で、上田繊専の単独大学昇格は実現しませんでした。1949年5月には衆議院文教委員会で単独昇格案が否決され、同年5月31日に発足した新制信州大学に包括される形で、その繊維学部の母体となりました。旧制上田繊維専門学校は1951年3月31日をもって正式に廃止されました。

後世への遺産

学校が創立以来使用してきた上田市常田の校地は、後身である信州大学繊維学部に引き継がれ、現在の常田キャンパスとして利用されています。旧上田繊維専門学校の校舎の一部である講堂は、国の登録有形文化財として大切に保存されており、現在も信州大学繊維学部の卒業式や修了式の会場として、また様々な催しに活用されています。NHKのスペシャルドラマ『坂の上の雲』では、陸軍大学校の講義室として使用された実績もあります。

卒業生たちは各分野で活躍し、日本昆虫学会会長を務めた八木誠政氏、帝国ホテル社長の金井寛人氏、上田市長を務めた永野裕貞氏など、多くの著名人を輩出しました。同窓会は「社団法人千曲会」と称し、旧制・新制の卒業生が一体となった活動を続けており、学校の歴史と精神を現代に伝えています。

上田蚕糸専門学校は、日本の近代蚕糸業および繊維産業の発展を技術・教育の両面から支えた重要な教育機関であり、その歴史は現在の信州大学繊維学部に受け継がれています。

（歴代校長：針塚長太郎、井上柳梧、伊藤武男）

上田蚕糸専門学校 (旧制)