上諭

上諭：天皇による法令の裁可・公布文書

上諭とは、日本国憲法施行前の日本において、天皇が法律、勅令、または皇室令を裁可し公布する際に用いられた文書です。天皇の言葉として、法令の裁可と公布を宣言するものでした。

上諭の運用と歴史

上諭の運用方法は、当初は明治19年勅令第1号で規定されていましたが、後に明治40年勅令第6号（公式令）によって規定されました。公式令の制定により、法令には必ず上諭が付されることになりました。しかし、1947年5月3日の日本国憲法施行により公式令は廃止され、上諭もその役割を終えました。日本国憲法下では、天皇による裁可は行われないため、上諭に代わって公布文が用いられるようになりました。

大日本帝国憲法下では、上諭は憲法の一部を構成すると解釈されることもありましたが、多くの場合は単なる裁可・公布を示すものであり、法令の一部とは見なされませんでした。そのため、法令集では上諭が省略されることも少なくありませんでした。また、法令の改正によって上諭の内容が変更されることはありませんでした。そのため、上諭と改正後の法令の内容に不一致が生じることもありました。法令が全面的に改正された場合のみ、新しい上諭または公布文が作成されました。

上諭の文例

上諭の文例は、法令の種類によって異なりました。1946年以降は、カタカナを用いた文語体からひらがなを用いた口語体へと変化していきましたが、皇室典範や皇室令は最後まで文語体のまま使用されました。

法律の場合:
「朕は、帝国議会の協賛を経たる○○○を裁可し、ここにこれを公布せしめる。」

勅令の場合:
「朕は、○○○を裁可し、ここにこれを公布せしめる。」

緊急勅令の場合:
「朕は、茲に緊急の必要ありと認め、帝国憲法第八条第一項により○○○を裁可し、これを公布せしめる。」

皇室令の場合:
「朕は、○○○を裁可し、ここにこれを公布せしめる。」

さらに、枢密院、貴族院、皇族会議などの諮詢を経た場合は、その旨が上諭に追記されました。

大日本帝国憲法と日本国憲法における上諭

大日本帝国憲法における上諭は、憲法の一部を構成すると解釈される場合もありましたが、日本国憲法における上諭は、単なる裁可・公布文であり、憲法の一部とはみなされません。日本国憲法に付された上諭は、公式令に基づいて作成され、大日本帝国憲法と日本国憲法の連続性を保つ役割を果たしました。これは、大日本帝国憲法における天皇主権から日本国憲法における国民主権への移行という、主権者の変遷を伴う歴史的な転換を反映しています。

日本国憲法の制定は、大日本帝国憲法第73条の改正手続に従って行われましたが、天皇主権から国民主権への移行は、憲法改正無限界説の立場からは、憲法改正の範囲内とみなされました。一方、憲法改正限界説を支持する学者からは、八月革命説が唱えられましたが、広く支持を得たわけではありません。

まとめ

上諭は、日本国憲法施行以前の重要な制度であり、天皇の役割や、法令制定のプロセスを理解する上で欠かせない要素です。その歴史的背景や、大日本帝国憲法と日本国憲法における上諭の違いを理解することで、日本の近代史、特に憲法史への理解を深めることができます。

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