下の城のイチョウ

下の城のイチョウ：千年を超える歴史と人々の信仰が宿る巨樹

熊本県阿蘇郡小国町下城にそびえ立つ「下の城のイチョウ」は、国の天然記念物に指定されたイチョウの巨樹です。推定樹齢1000年以上という歴史を誇り、熊本県内最大級のイチョウとして知られています。小国町のホームページや観光案内では「下城の大イチョウ」と表記されることも多いですが、正式名称は「下の城のイチョウ」です。これは、指定当時の地名が「下ノ城」だったことに由来します。

地理と特徴

下城地区は、小国町の中心地と杖立温泉の中間地点に位置し、国道212号から少し入ったところにあります。落差約40mの下城滝のすぐ西側にあり、筑後川水系の流域に属しています。

樹高は約25m、根元の周囲は約21m、目通り幹囲は約9.6mから12mと、資料によって数値が異なります。特徴的なのは、その枝張りの大きさです。東へ約19m、西へ約25m、南へ約19.5m、北へ約15.5mと広がり、最大で40mにも及ぶという記録もあります。遠くから見ると、複数のイチョウが群生しているように見えるほどです。

下の城のイチョウは雌株で、根元には多数のひこばえが柱状に伸び、主幹を囲むように大きな塊を形成しています。中には高さ2m、周囲1.9mもあるものもあります。また、幹には多数の乳瘤（ちちこぶ）があり、古くから母乳の出を良くすると信じられてきました。そのため、地元の人々から「チコブサン」や「チチコブサン」と呼ばれ親しまれ、現在でも樹皮に削り取られた痕跡が残っています。子宝や良縁を祈願する人も訪れるそうです。

伝説と信仰

イチョウの根元には、かつてこの地を治めていた下城城主、上総介経賢の墓所があり、隣には母の妙栄の墓とされる五輪塔があります。イチョウは、その墓標であるという言い伝えがあります。また、鏡ヶ池伝説では、醍醐天皇の孫娘である小松女院の乳母眞神の墓標とも伝えられています。

このように、下の城のイチョウは、母乳に関する言い伝えや、歴史上の偉人の墓標という伝承と結びつき、女性と深い関わりを持つ樹木として、地元の人々から大切に守られています。地元の婦人会による手厚い管理保護も行われています。

見頃とアクセス

毎年10月下旬から11月上旬にかけて見頃の黄葉を迎えます。小国町では夜間のライトアップも行われ、多くの観光客が訪れます。

アクセスは、車で道の駅小国（ゆうステーション）から約5分です。熊本市方面からは、大津町を経由して国道212号を利用し、約50分。大分自動車道九重インターチェンジからは、国道387号経由で約30分かかります。

下の城のイチョウは、その巨樹ぶりだけでなく、歴史、伝説、信仰が凝縮された、まさに特別な存在と言えるでしょう。

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