巨樹

巨樹：その定義と計測、そして歴史

巨樹とは、並外れた大きさを持つ樹木のことです。巨木、大木、大樹といった言葉も同義的に用いられますが、これらの言葉は、高さよりも幹の太さに重点を置いた表現と言えるでしょう。

巨樹の大きさを測る方法は、国際的に統一された基準がありません。ヨーロッパでは、地上から1.3メートル（胸高）の位置を基準に幹の周囲を計測することが一般的です。一方、日本の環境省が行っている巨樹調査では、地上1.3メートルにおける幹周が3メートル以上の木を対象としています。

しかし、樹木の形状は様々であり、数値だけで正確に大きさを測ることは容易ではありません。例えば、カツラの巨樹は主幹を失って複数の枝が束になった状態であることが多く、ガジュマルでは発達した気根が幹を覆っているため、幹周の計測が困難な場合もあります。そのため、環境省の調査結果と、現地解説板や愛好家のウェブサイトの情報に差異が生じることは珍しくありません。

日本の巨樹調査の歴史は、1988年から1992年にかけて実施された「自然環境保全基礎調査」に端を発します。この調査で初めて全国規模の巨樹調査が行われ、約5万6000本の巨樹が報告されました。2000年のフォローアップ調査では、さらに約1万2000本が追加報告され、合計約6万8000本というデータが得られました。このデータは、東京都奥多摩町立日原森林館のウェブサイトで公開されており、地域や樹種などの条件で検索することも可能です。

それでも、調査漏れは依然として多く、環境省は一般からの調査協力も呼びかけています。個人が調査票に基づいて調査結果を報告することもできます。愛好家たちの努力によって、現在も新たな巨樹が次々と発見されています。

伝説の中の巨樹：神話と歴史書に描かれた巨木たち

巨樹は、古来より人々の心に特別な存在として刻まれてきました。世界各地の神話や伝説には、巨樹が登場する物語が数多く存在します。

シュメール神話に登場する「キスカヌ」は、世界の中心都市エリドゥに聳え立つ巨樹として知られています。これは、世界樹や生命樹といった、多くの文化に見られる巨樹モチーフの源流の一つと考えられています。ペルシア神話やゾロアスター教、北欧神話、中国神話、ヒンドゥー神話など、様々な文化圏において、巨樹は宇宙の中心や生命の根源を象徴する存在として描かれています。ヒンドゥー教では、菩提樹の巨樹「アシュヴァッタ」が重要な象徴として扱われています。

日本の歴史書にも、巨樹に関する記述が見られます。『日本書紀』には、筑紫後国三池（現在の福岡県）に倒れた巨樹の記述があります。その長さは970丈（約2910メートル）にも及び、橋として利用されていたと伝えられています。この巨樹はクヌギであり、倒れる前は朝日と夕日の影で遠くの山々を隠すほど巨大だったとされています。天皇はこの巨樹を神木として崇め、この国を「御木（みけ）の国」と名付けたという伝説が残されています。

『播磨国風土記』には、仁徳天皇の時代に存在した楠の巨樹が記述されています。この楠は、朝日と夕日の影で淡路島と大和島根を隠すほど巨大だったとされ、この木を伐採して造られた船は「速鳥」と呼ばれ、その速さは驚くべきものだったと伝えられています。

『今昔物語集』には、近江国栗太郡にあったという柞（ハハソ）の巨樹の伝説が記されています。その幹周は500尋（約900メートル）にも及び、朝日の影は丹波国に、夕日の影は伊勢国にまで届いたとされています。この巨樹は非常に大きいため、栗太郡だけでなく、周辺の郡の百姓たちも田畑を耕すことができませんでした。そのため、天皇に訴え出た結果、巨樹は伐採され、人々は豊穣を得ることができたという話です。この伝説は、後世に様々な形で受け継がれています。

これらの伝説は、巨樹が人々の生活に深く関わり、畏敬の念を抱かれる存在であったことを示しています。また、巨樹の伐採は、新たな土地の開発や発展を象徴する出来事として物語に描かれている場合もあります。

巨樹に関する書籍

巨樹に関する書籍も多く出版されています。代表的なものとして、蟹江節子・吉田繁著『地球遺産 最後の巨樹』、トマス・パケナム著『地球のすばらしい樹木たち—巨樹・奇樹・神木』、高橋弘著『巨樹・巨木をたずねて』『神様の木に会いに行く—神秘の巨樹・巨木・ご神木の聖地巡礼』、渡辺典博著『巨樹・巨木—日本全国674本』などが挙げられます。これらの書籍は、巨樹の生態や分布、文化的な意義などを詳しく解説しています。

巨樹は、自然の偉大さと生命力の象徴であり、私たちに多くのことを語りかけてくれる存在です。今後も巨樹に関する研究や調査が続けられ、その魅力がより多くの人々に知られることを期待したいものです。

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