下山手カトリック教会

下大手カトリック教会：歴史と記憶の痕跡

神戸市中央区下山手通に位置していた下山手カトリック教会は、明治43年（1910年）に建てられた歴史的建造物でした。ロマネスク様式を基調とした煉瓦造りの聖堂は、約1300坪の広さを誇り、兵庫県内でも最古級の教会建築として、その存在感を示していました。

単なる礼拝堂にとどまらず、この教会は地域社会において多様な役割を果たしていました。教会内には、フィロメナ・バレンティン・アントニン校長の下、孤児院と幼稚園を兼ね備えた児童施設、幼きイエズス会の神戸女子教育院が併設され、多くの子供たちの成長を見守ってきました。教会が運営する幼稚園も存在し、教育面での貢献も大きかったと言えるでしょう。

また、下山手カトリック教会は、パウロ・古屋義之司教とペトロ・小林有力司教という、二人の司教を輩出したことでも知られています。これは教会が地域社会に与えた影響の大きさを示す重要な事柄と言えるでしょう。さらに、天皇陛下より御下賜金を受けたという栄誉にも輝いており、その歴史的価値は非常に高いものでした。

教会の始まりは、明治43年9月、ヘンリー・ペリン司祭による聖堂の献堂式に遡ります。その後、昭和20年（1945年）6月の神戸大空襲により司祭館が焼失するなど、幾多の困難を経験しました。しかし、信徒たちの強い信仰心によって、教会は活動を続けました。

しかし、平成7年（1995年）1月17日に発生した阪神大震災により、聖堂は完全に倒壊するという、大きな被害を受けました。この壊滅的な被害は、教会の歴史に終止符を打つこととなりました。

震災からの復興の中で、平成11年（1999年）5月23日、下山手カトリック教会は、中山手カトリック教会と灘教会と統合され、カトリック神戸中央教会として新たな歴史を歩み始めることになりました。そのため、旧下山手カトリック教会の建物は再建されることはありませんでした。

現在、下山手カトリック教会は、写真や文献資料の中にその姿を留めるのみとなっています。しかし、その歴史と記憶は、神戸の地に深く刻み込まれ、多くの人々の心に生き続けています。かつて存在した教会の輝かしい歴史と、震災によって失われた聖堂の悲劇は、未来へと語り継がれていくべき貴重な遺産と言えるでしょう。

参考文献

『兵庫県大百科事典 下巻』神戸新聞出版センター、1983年
藤森照信著、増田彰久写真『失われた近代建築2 文化施設編』講談社、2010年

関連項目

* 中山手カトリック教会

もう一度検索