下川手村

下川手村（しもかわてむら）は、かつて岐阜県の南部に存在した行政区画で、現在は岐阜市の一部を形成しています。具体的には、下川手、西川手、東川手、石切町、西明見町、東明見町、矢倉町、村里町、朝霧町、八坂町、正法寺町といった地名に、かつての村の範囲が見られます。

この地は、日本の歴史において特に南北朝時代から戦国時代にかけて重要な役割を果たしました。当時、この地域を治めていた有力な武家である土岐氏が築いた川手城があり、その周囲には城下町が形成されました。この城下町は、単なる軍事拠点や経済活動の中心にとどまらず、文化的な繁栄も見せました。特に、京都で応仁の乱が勃発し、都が荒廃した際には、多くの公家たちが戦火を避けて地方へ避難しましたが、彼らの一部は当時権勢を誇っていた土岐氏を頼り、川手城下に移り住んだと伝えられています。公家たちの存在は、地方の城下町に都の文化や教養をもたらし、地域の繁栄を一層促進したと考えられています。

しかし、戦国の動乱を経て、川手城は1530年には役割を終えて廃城となりました。その後も、斎藤道三のような新たな支配者のもとで一定の繁栄を維持した時期もありましたが、織田信長の台頭とその後の天下統一の過程で、地域の中心としての地位は徐々に失われ、衰退していったとされています。

江戸時代に入ると、この地域は加納藩の領地の一部となりました。幕藩体制の下で、この地は引き続き農村として営みが続けられました。

近代に入り、明治時代の行政改革が進められる中で、下川手村も大きな変遷を遂げました。1889年（明治22年）7月1日、市町村制が施行された際に、単独の村として発足しました。当初、この村は厚見郡に属していましたが、明治時代の後半にかけて全国的に郡の統合が進められる中、この地域の行政区分も変更されました。1897年（明治30年）4月1日、方県郡の一部、厚見郡、そして各務郡が広域的に合併され、新たに稲葉郡が設置されました。これにより、下川手村も稲葉郡の管轄となりました。

しかし、稲葉郡への所属変更と同じ日である1897年（明治30年）4月1日、下川手村は隣接する他の村との合併により、その単独の歴史を終えました。具体的には、領下村および上川手村と合併し、新たな自治体である厚見村が誕生しました。この合併をもって、下川手村という名称を持つ自治体は廃止されました。

下川手村が存在した期間は比較的短いものでしたが、中世における川手城下町としての長い歴史を持ち、地域の発展において重要な役割を果たした場所でした。廃止後は厚見村の一部となり、その後さらに周辺自治体との合併を経て、現在は岐阜市の中心部にも近い地域としてその名を残しています。かつての城下町の面影は薄れつつありますが、地名としてその歴史が語り継がれています。

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