下斗米伸夫

下斗米 伸夫（しもとまい のぶお）は、1948年11月3日に北海道札幌市に生まれた日本の政治学者です。特に旧ソ連・ロシアの政治研究において、その第一人者として広く認識されています。比較政治や独立国家共同体（CIS）地域の政治についても深い知見を持ち、長年にわたり日本の学界を牽引してきました。

熊本県立熊本高等学校を卒業後、東京大学法学部に進学し、1971年に卒業しました。さらに東京大学大学院法学政治学研究科の修士課程に進み、政治学者・ソ連研究者の渓内謙に師事します。1978年には同研究科の博士課程を修了し、東京大学から法学博士の学位を取得しました。この時の学位論文は「ソビエト労働組合（1925年-1928年）伝達紐帯の政治構造」というテーマでした。

大学院修了と同じ1978年、成蹊大学法学部の専任講師に着任し、その後、同大学の教授に昇任します。1988年からは法政大学法学部に教授として迎えられ、2019年に退職するまでの30年以上にわたり、教育と研究に貢献しました。退職後、法政大学名誉教授の称号を授与されています。現在も神奈川大学法学部特別招聘教授として教壇に立っています。

研究活動においては、国際的な視点を重視し、数多くの在外研究を経験しています。1975年から1976年にかけて文部省の派遣留学生としてモスクワに滞在したのをはじめ、1983年から1985年にはイギリスのバーミンガム大学ロシア東欧研究センター、1992年から1994年にはアメリカ合衆国のハーバード大学ロシア研究センターで研究を行いました。また、2008年から2009年にはロシア科学アカデミー東洋学研究所でも在外研究に従事するなど、主要な研究機関で研鑽を積んでいます。

学術活動にとどまらず、社会に対しても積極的な発言を行っています。1998年から2001年まで朝日新聞社の客員論説委員を務め、国際情勢に関するコラムなどを執筆しました。また、2002年から2004年には日本国際政治学会の理事長として、学会の運営と発展に尽力しました。2003年に開催されたAPEC首脳会合の日露首脳会談で設立が合意された「日露賢人会議」のメンバーを務めるなど、日本とロシアの間の知的交流や相互理解の促進にも貢献しています。

その優れた研究成果は高く評価されており、数々の著作を世に送り出しています。代表的な単著には、初期の研究対象であるソビエト政治論を扱った『ソビエト政治と労働組合』や『ソ連現代政治』、ソビエト連邦の末期を論じた『ゴルバチョフの時代』、『独立国家共同体への道』、スターリン時代のモスクワに焦点を当てた『スターリンと都市モスクワ』、そして冷戦史に関する『アジア冷戦史』（アジア・太平洋賞特別賞受賞）や『日本冷戦史』などがあります。また、『モスクワと金日成』では朝鮮半島、特に北朝鮮とソ連・ロシアの関係史を詳細に分析しています。近年の著作では、『ロシアとソ連 歴史に消された者たち』、『プーチンはアジアをめざす』、『プーチン戦争の論理』など、現代ロシアの政治や社会、外交、歴史観にも深く切り込んでいます。

単著のほかにも、共著、編著、共編著として多くの研究書や啓蒙書を出版しており、幅広いテーマを扱っています。また、ロシアの学術文献や歴史資料の翻訳も手がけ、日本の研究者や一般読者が一次資料にアクセスするための重要な橋渡し役も果たしています。2018年には日本政治法律学会より現代政治学会賞を受賞するなど、その研究は学術界においても高く評価されています。

下斗米伸夫氏は、ソ連の成立から崩壊、そして現代ロシアに至る激動の時代を精緻な実証研究と多角的な視点から分析し続け、日本のロシア・CIS政治研究の確立と発展に極めて重要な役割を果たしてきました。その著作や提言は、現代世界の政治情勢を理解する上で不可欠な示唆に富んでいます。

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