下梨城

下梨城

富山県南砺市下梨に築かれた戦国時代の日本の城郭です。山城に分類され、藤井城という別称でも知られています。現在の南砺市役所平市民センターやその西側駐車場に相当する場所に位置していましたが、残念ながら今日では城の遺構は確認されていません。

歴史的背景と城主に関する考察

下梨城について言及する史料として、富田景周によって著された『故墟考』があります。この書物には、「金森長門守重直の家臣、藤井九郎右衛門がこの城に拠った」との記述が見られます。この記述から、藤井九郎右衛門が城主であった可能性が示唆されています。

また、天文21年（1552年）10月27日付の「五箇山十日講起請文」には、「下梨谷の藤井与三兵衛」という人物の名が登場します。この藤井与三兵衛と、『故墟考』に見える藤井九郎右衛門は、何らかの近親関係にあったのではないか、と考えられています。

一方で、『故墟考』に記されている「金森長門守重直」という人物像については、史実との整合性に疑問符がつけられています。金森重直という人物は確かに実在しますが、慶長18年（1641年）に26歳で生涯を終えており、これは下梨城が機能していたと考えられる戦国時代末期とは時代が大きく異なります。加えて、彼が「長門守」という官途名を称した記録も見当たりません。

これとは別に、長門守を称した金森重頼という人物も存在します。しかし、彼は江戸時代に入った元和元年（1615年）に飛騨国の領主となった人物であり、越中国五箇山という他国の武士を家臣としたとは考え難い状況です。

これらの点から、『故墟考』の記述にある「金森長門守重直」に関する部分は、史実とは異なる可能性が高いと指摘されています。したがって、下梨城の城主が金森氏の家臣であったとする記述についても、今後のさらなる研究が待たれます。

城の構造と立地

下梨城の具体的な構造や規模を知る手掛かりとして、「五ヶ山下梨村領有之古城跡および捨馬御高札場見取絵図」と題された図面が残されています。この図面に基づいて城跡の規模を見ると、南北はおよそ40間（約72メートル）、東西はわずか5間（約9メートル）という、南北に細長い形状であったことが分かります。

城は周囲の西北に広がる平地からおよそ5尺（約1.5メートル）ほどの高さに位置していました。図面によれば、城のすぐ下まではおよそ25間（約45メートル）、そして南東方向に庄川まではおよそ30間（約54メートル）ほどの距離があったとされています。

この図面から読み取れる最も重要な特徴は、下梨城が庄川の左岸に面した断崖の上に築かれていたという点です。これにより、城の南東側は自然の急斜面によって守られる形となっていました。さらに、下梨平に水を堰き止めることによって、城の周囲に湖水を作り出すことが可能であり、これにより城は強力な防御機能を持つ要害であったと評価されています。

現状

下梨城があったとされる場所は、現在の南砺市役所平市民センターおよびその西側に広がる駐車場周辺です。残念ながら、長い年月の間に城の構造物は失われてしまい、現在では地上に確認できる城の遺構は一切残っていません。

戦国時代の五箇山における地理的な条件を巧みに利用して築かれた下梨城は、当時の緊迫した状況下における防御施設としての役割を担っていたと考えられます。その姿は失われてしまいましたが、残された史料や図面から、往時の様子を偲ぶことができます。

参考文献

平村史編纂委員会 編『越中五箇山平村史 上巻』平村、1985年。
平村史編纂委員会 編『越中五箇山平村史 下巻』平村、1983年。
佐伯哲也『越中中世城郭図面集 3西部・補遺編』桂書房、2011年。
高岡徹『越中戦国紀行』北日本新聞社出版部、2011年。

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