下田菊太郎

下田菊太郎：異端の建築家、帝冠様式の先駆者

下田菊太郎（1866年6月14日 - 1931年12月26日）は、明治から昭和初期にかけて活躍した日本の建築家です。秋田県角館（現在の仙北市）に佐竹藩士の次男として生まれました。

アメリカでの研鑽と帰国後の活動

工部大学校（現在の東京大学工学部）中退後、アメリカに渡り、ニューヨークの建築設計事務所で実務経験を積みました。シカゴ万国博覧会では、カリフォルニア館の現場管理副主任として鋼骨建築を学び、ダニエル・バーナムに師事しました。その後、アメリカで建築設計事務所を設立し、独立。フランク・ロイド・ライトの下で働いた時期もありました。

帰国後は横浜に建築事務所を開設し、外国人向けの設計施工を手がけました。また、上海にも拠点を設け、国際的な建築家として活動しました。日本郵船上海桟橋の設計なども手がけています。

帝冠様式の提唱

下田菊太郎は、昭和初期の官庁建築に広く用いられた帝冠様式を初めて提案したことでも知られています。帝国議会議事堂の設計競技において、西洋建築の上に日本式の瓦屋根を載せるという斬新なアイデアを提唱しました。しかし、当時の建築界からはほとんど無視され、彼の意匠変更請願も採用されることはありませんでした。それでも彼は、帝冠様式の普及に情熱を注ぎ続けました。

異端の建築家

下田菊太郎は、当時の建築界では異色の存在であり、自らを「建築界の黒羊」と称しました。その理由は、彼の建築に対する独自の考え方や、既存の権威に迎合しない姿勢にありました。彼は、常に新しい建築の可能性を追求し、独自の道を切り開いていったのです。

主な作品

香港上海銀行長崎支店（現 旧香港上海銀行長崎支店記念館、1904年、重要文化財）
スタンダード石油横浜支店（1904年、指名コンペ当選）
トアホテル（1908年）
横浜山手町米国海軍病院（1908年）
上海総会 室内設計（現 東風飯店、1912年）

著作

『欧米建築』（1889年）
『思想と建築』（1928年）

下田菊太郎は、その生涯を通じて、常に新しい建築の可能性を追求し続けた異端の建築家でした。彼の提唱した帝冠様式は、後の日本の建築界に大きな影響を与えました。

参考資料

田中禎彦「日本人建築家の軌跡」『日本の美術』第448号、至文堂、2003年。
藤森照信『日本の近代建築（下）－大正・昭和篇』岩波新書、1993年。
近江栄・藤森照信 編『近代日本の異色建築家』朝日選書、1984年。

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