下越水害

下越水害（かえつすいがい）とは、1966年（昭和41年）7月17日を中心に、日本の新潟県下越地方で発生した大規模な水害を指します。その発生日を冠して、地元では「7・17水害」とも呼ばれ、地域史において重要な出来事として記憶されています。

この水害の主な原因は、1966年7月16日から18日にかけて、下越地方を覆った梅雨前線によってもたらされた記録的な集中豪雨でした。この豪雨により、地域を流れる主要な河川である加治川、胎内川、そして荒川といった河川において、堤防が次々と決壊し、周辺地域に甚大な洪水被害を引き起こしました。

特に被害が集中し、深刻な状況に陥ったのは加治川の左岸一帯でした。加治川の破堤から流れ出した膨大な量の濁流は、低地に広がる田畑や家屋を瞬く間に飲み込みました。さらに悪いことに、この加治川からの洪水に加えて、付近に位置する福島潟からの溢水も発生し、両者が合流することで、被害範囲は一層拡大しました。この地域の低湿地帯では、水が引くことなく広範囲にわたって水没状態が続き、長期間にわたる湛水が発生しました。

浸水した地域からの排水は極めて困難を伴いました。地域の排水を担う新井郷川排水機場だけでは、洪水によって流入した膨大な量の水を処理しきれる能力がなく、排水作業は著しく遅延しました。この未曽有の事態に対し、地域からの早期排水を図るため、異例かつ緊急の措置として、地域を流れる新潟県の大河川である阿賀野川の堤防を人為的に開削するという手段が講じられました。これは、湛水した水を阿賀野川へと流し込むための苦肉の策でした。

この懸命な排水作業と阿賀野川堤防の開削という対策の結果、浸水地域からの水の引きが始まりましたが、完全に排水が完了したのは8月4日のことでした。これは最初の浸水から実に19日後であり、住民は3週間近くにわたって水没した生活環境と戦わざるを得ませんでした。この長期間にわたる湛水は、地域の生活基盤、特に農業に壊滅的な打撃を与え、復旧には長い時間を要しました。

一方、加治川の右岸側へ向かった洪水は、主に落堀川方面へと流れ込みました。この洪水もまた、かつて潟であった紫雲寺潟の跡地などに水を溜め、周辺地域に浸水被害をもたらしました。

この下越水害の翌年、1967年（昭和42年）8月28日には、再び下越地方を、そして山形県南部を含む広い範囲を羽越水害（羽越豪雨、または8・28水害）が襲いました。これにより、下越地方は2年連続で大規模な水害に見舞われるという極めて困難な状況に直面しました。これは、当時の気象条件がこの地域に与えた影響の大きさを物語っています。

1966年の下越水害は、集中豪雨が河川堤防の決壊を引き起こし、特に低湿地帯での長期間にわたる広範な湛水という複合的な被害をもたらした災害でした。この経験は、その後の地域の治水対策や防災計画において、重要な教訓として活かされることとなりました。

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