下間久美子

下間 久美子：文化財と景観の未来を拓く研究者

下間 久美子（しもつま くみこ）氏は、日本の文化財建築研究における第一人者の一人です。旧姓は栗林。1967年に山形県で生まれ、長年にわたり国内外で文化遺産や文化的景観の保護・活用に尽力してきました。工学博士（東京大学）の学位を持ち、現在は國學院大學観光まちづくり学部教授として、その専門知識と経験を活かした後進の指導にあたっています。

下間氏の学問的キャリアは、千葉大学工学部建築学科で始まりました。建築という分野で基礎を築いた後、東京大学大学院工学系研究科修士課程へと進学し、さらに深い研究へと進みます。同大学院の博士課程は中途退学ながらも、その研究成果は高く評価され、1996年には東京大学から乙種として博士（工学）の学位を授与されました。この時の博士論文は「住環境創出の指標としての歴史的建造物の保存及び活用に係る研究」と題され、歴史的建造物が単なる過去の遺物ではなく、現代そして未来の住環境を考える上での重要な資源であることを示唆する内容でした。これは、下間氏が一貫して取り組む文化財の「保存」と「活用」というテーマの原点と言えるでしょう。

学位取得後、下間氏はその活動の舞台を国内外へと広げます。ユネスコ世界遺産センターやユネスコ・バンコク事務所といった国際機関での勤務は、世界各地の文化遺産保護の現場に触れる貴重な経験となりました。帰国後、文化庁文化財調査官、文部科学技官として、日本の文化財行政の中枢に関わります。特に文化庁では、文化財第二課において主任文化財調査官（文化的景観部門）を務め、近年重要性が増している文化的景観の保護・調査体制の構築に貢献しました。また、文化財保存修復研究国際センター（ICCROM）のプロジェクト・マネジャーとしても、国際的な文化財保存修復研究の推進に重要な役割を果たしています。

これらの多岐にわたる経験を経て、2022年度からは國學院大學観光まちづくり学部の教授に就任しました。大学という教育・研究機関において、これまでの実務経験に基づいた実践的な視点と、文化財建築研究者としての深い知見を次世代の研究者や実務家へと伝え、観光とまちづくりにおける文化財・文化的景観の役割を探求しています。

研究業績としては、多くの著作や論文を発表しています。代表的な著書としては、文化財研究所監修の『長崎居留地』（至文堂、2005年）があり、長崎の歴史的な街並みに関する詳細な研究がまとめられています。また、共編書として『日本の町並み調査報告書集成』19～31巻（海路書院、2007年）に携わるなど、日本の各地の歴史的な町並み調査に関する重要な資料集の編纂にも関わっています。さらに、国際的な知見を日本に紹介する活動として、ハーブ・ストーベル著の『建築・都市遺産の防災指針 - 世界文化遺産のためのマネジメント・マニュアル - 』（アルヒーフ、2008年）の共訳も手掛けており、文化遺産の防災という喫緊の課題に対する専門性の高さを示しています。これらの業績に加えて、CiNiiなどの学術情報データベースには、旧姓の栗林を含む多数の論文が登録されており、その研究活動の幅広さと深さを知ることができます。

下間久美子氏は、文化財建築研究者として、教育者として、そして国際的な視野を持つ実務家として、文化遺産や文化的景観の価値を次世代に継承し、未来へと繋げていくための重要な役割を担っています。その活躍は、今後も文化財を取り巻く様々な分野で注目されることでしょう。

もう一度検索