下関事件 (騒乱)

1949年8月、日本の山口県下関市において、在日韓国・朝鮮人団体間の激しい対立が大規模な騒乱へと発展した事件である。この出来事は「下関事件」として知られる。

事件の遠因となったのは、大韓民国政府が1949年から開始した、海外に住む同胞を対象とした「在外国民登録」制度だった。民団（在日本大韓民国民団）は、この登録に応じなければ朝鮮人としての資格を失い、無国籍状態になる可能性があるとして、登録を強く推奨する活動を行った。これに対し、朝連（在日本朝鮮人連盟）側が反発し、両組織の間には緊張が高まり、小規模な衝突が頻繁に発生するようになった。特に、同年8月15日には山口県小野田市（現在の山陽小野田市）で大規模な衝突が発生しており、これが下関での事件に繋がる直接的な引き金の一つとなったと考えられている。

事態は1949年8月19日の夜に緊迫した局面を迎える。午後11時頃、下関市内の朝連事務所前には約150名の在日朝鮮人が集まり、民団を非難する集会が開かれた。この集会自体は特段の混乱なく終了したが、警備にあたっていた朝連の構成員と、同じく現場周辺にいた民団の構成員が路上で偶然遭遇したことから、突如として乱闘騒ぎが発生した。この衝突の中で、民団側の人間が日本刀を使用し、朝連側に負傷者が出たことが、事態をさらに悪化させた。

この負傷者発生を受け、朝連側は民団に対する報復を決意する。翌8月20日午前2時30分頃、朝連の構成員約200名が招集され、民団下関支部や民団構成員の自宅に対する襲撃が開始された。彼らは対象となった家屋に押し入り、金品を略奪するなどの狼藉行為を行った後、その場から散会した。この突発的かつ組織的な襲撃行為により、未明にも関わらず下関市内は一時的に極度の混乱状態に陥った。

事態を重く見た下関市警察は、直ちに国家地方警察山口県本部に対して応援部隊の派遣を要請した。この要請を受けた国家地方警察本部は、自治体警察を含む山口県内の全警察署に対し、緊急の非常招集をかけた。さらに、警察学校の学生までもが治安維持のために動員されることになった。県内各地から応援の警察官が下関に到着すると、警察は朝連および民団の関連施設に対する一斉捜索を開始した。この捜索活動においては、939名の投入された警察官のうち14名が負傷するという事態も発生したが、結果として初動段階で73名の事件関係者が検挙された。

さらに翌日の8月21日には、下関市警察と国家地方警察が連携し、「下関事件合同警備本部」が設置された。同時に、市内の主要な場所に検問所が設けられ、事件に関与した者の逃亡を阻止するための体制が強化された。これらの徹底した捜査と警戒により、最終的には合計208名が検挙されるに至った。検挙された者の中から、殺人未遂罪や騒擾罪などの容疑で、75名が裁判所に起訴され、事件の収束へと向かった。この事件は、戦後の混乱期における在日韓国・朝鮮人社会内部の対立と、それが引き起こした社会不安を示す事例として記録されている。

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