不入の権 (日本)

中世日本の荘園における不入の権

中世日本において、荘園領主は独自の権限を有していました。その代表的なものの一つに「不入の権」があります。これは、外部権力、特に国衙や検非違使といった国家機関による干渉を拒否する権利を指し、荘園の自治性を強固に支える重要な制度でした。

不入の権の基礎

不入の権は、荘園が国衙からの税負担を免除される「不輸の権」と密接に関連しています。不輸の権を持つ荘園は、国司による税の徴収や、班田収授法に基づく土地調査を免除されていました。しかし、国衙は様々な名目で荘園への立ち入りを試み、荘園領主はこれを拒否するために不入の権を求めるようになりました。

不入の権の範囲は、当初は国衙からの使者（検田使、収納使など）の立ち入り拒否に限定されていました。しかし、次第に検非違使による警察権行使の排除も含まれるようになり、荘園内部における独自の司法権である検断権の行使をも許容するようになりました。

不輸と不入の複雑な関係

不輸の権は、個々の田地ごとに申請が必要でした。そのため、荘園領主は不輸の対象地を拡大しようとし、国司はこれを阻止しようとしました。また、一国平均役の導入や荘園整理令の施行によって、国衙の荘園への介入はますます強まりました。このような状況下で、荘園領主は不入の権をより積極的に主張し、宣旨（天皇や朝廷からの命令）を得て、国衙による介入を正式に拒否するようになりました。

検非違使は、徴税業務も担当していたため、荘園領主は検非違使の不入も求めるようになりました。これは、検非違使本来の業務である警察権の排除につながり、荘園の治安維持を領主自身が行うことを意味しました。この警察権排除は、「守護不入」の形で室町時代以降も続き、戦国時代の大名による荘園制度の解体まで存続しました。

検断不入

検断不入は、不入の権の中でも特に、犯罪容疑者の捜索や逮捕を拒否する権利を指します。荘園内部に独自の司法権（検断権）を持つ荘園では、外部権力の司法権と対立することがありました。検断不入は、荘園が一定の武力を保有している場合にのみ成立しやすく、中世末期の社会情勢の変化に伴い、徐々に衰退していきました。

不入の権の意義

不入の権は、荘園の自治性を確保し、荘園領主の権力を強化する重要な制度でした。国衙の干渉から逃れ、荘園経済を独自に運営することで、荘園領主は経済的・政治的な自立を維持することができました。しかし、同時に、国家権力の弱体化や地方社会の不安定化にもつながる側面がありました。不入の権は、中世日本の政治・社会構造を理解する上で欠かせない要素です。

まとめ

不入の権は、中世日本の荘園社会を特徴づける重要な制度でした。不輸の権と密接に関連しながら発展し、国衙や検非違使による干渉を拒否することで、荘園の自治性を維持する役割を果たしました。検断不入は、荘園内部の独自の司法権を示すもので、荘園の自立性を象徴するものでした。不入の権は、中世日本の政治、経済、社会構造を理解する上で重要な要素であり、その歴史的意義は高く評価されています。

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