不動の動者

不動の動者：アリストテレスが見た宇宙の原動力

アリストテレスは、彼の宇宙観において、宇宙の運動の根源を「不動の動者」という概念で説明しました。これは、宇宙の中心に位置する地球を取り巻く天球の円運動を、永遠に自己充足し、自ら動くことなく他のものを動かす存在が引き起こしているという考え方です。

地球中心的世界観と不動の動者

アリストテレスの宇宙は、地球を中心とした同心円状の天球で構成され、それぞれの天球は完璧な円運動で運行すると考えられていました。この宇宙全体の運動の原動力こそが、「不動の動者」なのです。不動の動者は、自ら動くことなく、その存在によって他の天球の運動を引き起こし、宇宙全体の秩序を維持していると考えられました。

神としての不動の動者

アリストテレスは、『形而上学』において、この不動の動者を「神」と同一視しました。しかし、これは私たちが一般的にイメージする神とは異なり、人格神ではなく、純粋な思考と観照によって自己充足する存在です。この神は、一切の欠乏や変化を持たず、永遠に完全な状態にあり、最高の善を体現しています。この不動の動者としての神は、後世のキリスト教[[神学]]、特にトマス・アクィナスの神学に大きな影響を与えました。

プラトンの影響

アリストテレスの不動の動者という概念は、彼の師であるプラトンの哲学、特にプラトンの著作『ティマイオス』に登場する「デミウルゴス」という創造神の影響を受けていると考えられます。デミウルゴスは、混沌とした物質から宇宙を創造した神ですが、アリストテレスの不動の動者は、宇宙を創造するのではなく、その運動の根源をなす存在として描かれています。

ニコマコス倫理学における不動の動者

アリストテレスは『ニコマコス倫理学』においても、不動の動者、すなわち純粋な思考と観照による自己充足の状態を、人間の究極の幸福（エウダイモニア）と結びつけています。人間は、神のような完全な状態にはなれませんが、知的な活動を通して、その状態に近づく努力をすることができる、とアリストテレスは主張しました。

第一哲学としての形而上学

アリストテレスは『自然学』と『形而上学』で、宇宙の秩序と運動を説明するために、不動の動者の概念を用いています。特に『形而上学』では、不動の動者を第一原因、第一動者、第一の不動の動者として位置づけ、宇宙の根本原理として論じています。不動の動者は、不滅で不変の存在であり、感覚的な世界を超えた存在として描かれています。

第一原因としての不動の動者

アリストテレスは、『自然学』において、運動や変化には必ず原因が存在しなければならないと主張しました。そして、無限に遡ると、最初の原因、つまり第一原因が必要となります。この第一原因こそが、不動の動者です。不動の動者は、自ら動くことなく、宇宙全体の運動を引き起こす最初の原因として存在しています。

不動の動者の存在証明

アリストテレスは、不動の動者の存在を証明するために、いくつかの論証を展開しています。例えば、宇宙が永遠に存在するならば、永遠の運動の原因となる存在が必要であり、その存在こそが不動の動者であると論じています。また、宇宙に始まりがあったとしても、その始まりを引き起こした原因、つまり第一原因の存在が必要であり、これも不動の動者であると主張しています。

アリストテレスにおける不動の動者の記述

アリストテレスは、『自然学』第8巻、『形而上学』第12巻、『動物運動論』などで不動の動者について論じています。これらの著作を通して、不動の動者の概念を多角的に考察し、宇宙の根本原理を解き明かそうとしています。

まとめ

アリストテレスの不動の動者は、単なる宇宙論的概念にとどまらず、神学、倫理学、形而上学など、彼の哲学全体に影響を与える重要な概念です。宇宙の運動の根本原因としての不動の動者の概念は、後世の哲学や神学に多大な影響を与え、現在でもその思想は深く考察され続けています。

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