世尊寺跡

世尊寺跡の概要

世尊寺跡（せそんじあと）は、奈良県吉野町吉野山子守にあった歴史的な寺院の跡地です。この寺院は、吉野水分神社の北側に位置し、現在の花矢倉展望台周辺であったと考えられています。世尊寺は、吉野山金峯山寺の塔頭の一つであり、本尊には釈迦如来を祀っており、山号は「鷲尾山」と名付けられていました。

残存する文化財

この寺跡には、重要文化財に指定されている梵鐘や「人丸塚」と呼ばれる石造物がわずかに残っています。また、和州芳野山勝景図によると、境内には「子守塔」と称される宝塔が存在していたことが示されています。

世尊寺は明治時代の神仏分離により衰退し、廃寺となりましたが、本尊の釈迦如来立像は金峯山寺の蔵王堂に移されました。さらに、本尊を支える脇侍であった阿難と迦葉の尊者像も同寺の観音堂に保管されています。その他、世尊寺に所蔵されていた天照大神像や戎神像は大阪今宮戎神社に、伝説的な聖徳太子像は吉野山の竹林院に保管されています。これらの仏像や神像は、いずれも鎌倉時代に作られたものとされています。

梵鐘の詳細

世尊寺跡で保存される梵鐘は、一般に「吉野三郎」として知られています。この鐘は、永暦元年（1160年）に鋳造されたもので、その高さは160cm、口径は123cmにおよぶ大型の鐘です。鐘身の形は、上部の径が狭く裾広がりになっており、上帯と下帯には美しい唐草文が施されています。また、鐘の側面には、鋳造時の銘や以前の鐘の銘文も残されています。この鐘は、平安時代の終わりに制作された珍しい例であり、1959年に重要文化財に指定されています。

本鐘は、東大寺の鐘「奈良太郎」や高野山金剛峯寺の鐘「高野二郎」と並んで「吉野三郎」と称され、かつては海に沈んだ巨鐘と共に「海に太郎」としても知られています。

人丸塚の謎

さらに、世尊寺跡には「人丸塚」と呼ばれる石が残されており、正体は不明ですが、かつて存在した五輪塔の一部である可能性が考えられています。この人丸塚は、子どもに恵まれるお守りとして崇敬されており、また火難を防ぐ力があるとも言われているため、地域の人々に大事にされています。

アクセス方法

世尊寺跡へ行くには、近鉄吉野線の吉野駅で下車し、吉野ロープウェイに乗り換えて約1時間30分歩く必要があります。花矢倉より南側の小高い丘の中腹に梵鐘があり、さらに山頂には人丸塚があります。最寄りの吉野展望台の入口には、訪問者向けに案内板が設置されていて、位置情報は北緯34度21分19.8秒、東経135度52分19.4秒です。

このように、世尊寺跡は多くの歴史的な背景と文化財に彩られた場所であり、訪れる人々に深い宗教的な体験を与えることができるスポットとなっています。

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