世界遊戯法大全

『世界遊戯法大全』：明治時代の遊びの百科事典

1907年、博文館より発行された『世界遊戯法大全』は、その名の通り、世界各地の多様な遊びを網羅した、まさに遊びの百科事典です。単なる遊びのルール集にとどまらず、歴史的背景や攻略法、数学的考察、そして編者である松浦政泰氏のユーモラスな解説まで加えられた、読み応えのある一冊となっています。

800種を超える遊びの世界

本書には、目次に従えば800種類以上の遊びが紹介されています。ポーカー、ドミノ、ババ抜きといった現在も親しまれているゲームはもちろん、双六、花札、百人一首といった日本の伝統的な遊びも網羅。さらに、現在ではほとんど遊ばれていない遊びも多く含まれており、明治時代の遊び文化を深く理解するための貴重な資料となっています。特に、オセロの原型であるリバーシ（当時「レヴァルシー」と表記）を日本で紹介した初期の文献としても知られています。

五つの章からなる構成

本書の内容は、「単独遊戯」、「相対遊戯」、「団欒遊戯」、「団体遊戯」、「余興遊戯」の五つの章で構成されています。

単独遊戯: ソリティアやパズルなど、一人で楽しめる遊び
相対遊戯: ボードゲームなど、二人で遊ぶ遊び
団欒遊戯・団体遊戯: カードゲームなど、複数人で楽しめる遊び（テーブルテニスなどのスポーツも一部含まれる）
余興遊戯: 手品など、パーティなどで披露できる遊び

それぞれの章には、すぐにでも始められるように詳細なルール説明が記載されています。明治時代に書かれた本とは思えないほど現代にも通用するルールブックとして活用できる点が、本書の大きな魅力です。

遊びの多様性と当時の文化

本書には、世界各地の有名遊戯だけでなく、「紙細工」や「バナナーを瓶に入れる方法」、「道行く犬の色当て」といった、一見すると些細な遊びまで網羅されています。百人一首の「早取り法」や紙切りの「楕円の切り方」など、遊びそのものというよりは、工夫や攻略法といった内容も含まれており、当時の大衆文化の一端を垣間見ることができます。

双六とバックギャモンを並べて紹介するなど、編者の深い造詣と的確な収集眼がうかがえます。また、トランプの語源を紹介し、日本と西洋での名称の違いを指摘するなど、細やかな記述も見られます。一方で、「狐と鵞鳥」といった日本国内で広く知られていた遊びへの言及は少ないなど、本書が当時の日本の遊びを全て網羅しているわけではない点も興味深いところです。本将棋ではなく、回り将棋や飛び将棋といった派生形を紹介しているのも特徴的です。

さらに、世界の遊び名を原名と和訳で表記している点も注目に値します。「ポーカー」や「ダウト」、「ババ抜き」など、現代とは異なる和訳も多く見られますが、そのまま定着した和訳もあります。

未完の企画と高価な値段

松浦氏は、「戸外遊戯」、「季節遊戯」、「英語遊戯」の三つの章を追加して、本書をさらに充実させようとしていたようですが、実現しませんでした。復刻版の解説者である秦芳江氏は、1円40銭という当時の価格が高価すぎたため、広く流通しなかったのではないかと推測しています。

まとめ

『世界遊戯法大全』は、単なる遊びのルール集を超えた、明治時代の遊び文化を深く理解するための貴重な資料です。800種類以上の遊び、詳細なルール説明、歴史的背景、そして編者のユーモラスな解説を通じて、現代にはない遊びの多様性や、当時の社会の様子を垣間見ることができるでしょう。復刻版も出版されているため、現代の読者も容易に本書に触れることができます。

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