丘山新

丘山 新（おかやま はじめ、法名：願海）氏は、1948年6月に東京都に生まれ、2022年4月25日に73歳で還浄された日本の仏教学者であり、浄土真宗本願寺派の僧侶でした。仏教思想を専門とし、その生涯を通じて学術研究と宗教界の双方で重要な足跡を残しました。

丘山氏は当初、学問の道として物理学を選択し、1972年に京都大学理学部物理学科を卒業しました。しかしその後、関心を仏教学に移し、東京大学大学院人文科学研究科の印度哲学専門課程に進学。ここで仏教の深遠な世界に触れ、研鑽を積みました。1976年に修士課程を修了後、博士課程に進み、1979年に単位取得退学しています。この大学院時代には、1980年から1982年にかけて中国に留学し、北京大学や中国社会科学院で学ぶ機会を得ました。この中国での経験は、その後の研究活動に大きな影響を与えたと考えられます。

研究者としてのキャリアは、1979年に財団法人東方研究会の専任研究員として始まりました。1986年には日本大学文理学部の専任講師に就任し、教育者としても歩みを進めます。そして1990年、東京大学東洋文化研究所の助教授に転じ、日本の仏教学研究の最前線へと舞台を移しました。1994年には同研究所の教授に昇任し、翌年には大学院人文社会系研究科の教授も兼務するなど、東京大学における仏教学研究の要として活躍しました。また、国際的な研究交流にも積極的で、1992年にはミュンヘン大学の客員研究員としてドイツに滞在しています。

東京大学を2012年に退職した後、丘山氏は仏教学者としての活動に加え、浄土真宗本願寺派の僧侶となる道を選び、2013年に得度しました。同年、浄土真宗本願寺派総合研究所の副所長に就任し、宗門における教学研究の推進に尽力。2015年には同研究所の所長に昇任し、本願寺派の教学の中枢を担う立場となりました。2022年4月には、仏教を学ぶ僧侶の育成機関である中央仏教学院の学院長に就任しましたが、残念ながらその職に就いて間もない同月25日に還浄されました。

丘山氏の研究専門分野である仏教思想は、初期仏教から大乗仏教、さらに中国仏教に至るまで広範に及びました。特に、浄土教の初期経典に関する文献学的考察や、仏教における「自己と他者」といった現代にも通じる哲学的テーマに深い関心を示し、多くの論文を発表しています。これらの研究成果は、日本の仏教学界における重要な貢献として評価されています。東京大学での教育活動と並行して、名古屋大学、明治大学、上智大学、東京都立大学、二松学舎大学大学院など、多くの大学で客員教授や非常勤講師として教壇に立ち、次世代の研究者や僧侶の育成にも情熱を注ぎました。また、日仏東洋学会、東西宗教交流学会、日本印度学佛教学会といった主要な学会の理事を務め、研究交流や学会の発展にも貢献しました。

著作活動も精力的に行い、自身の研究成果をまとめた単著『菩薩の願い - 大乗仏教のめざすもの-』は、大乗仏教の核心を分かりやすく解説した一冊です。また、中国の任継愈による『定本中国仏教史』の翻訳や、『現代語訳「阿含経典」 - 長阿含経 -』のような初期仏典の現代語訳にも携わり、仏典の普及にも努めました。妻であり音楽評論家の丘山万里子氏との共著『アジアの幸福論』では、異分野の視点を取り入れながら、多角的に幸福という普遍的なテーマを探求しています。これらの著作や論文を通じて、仏教思想の深い理解と独自のアプローチを示し、多くの人々に感銘を与えました。

物理学から仏教学へ、そして学術界から仏教界へと、常に探求心を失わず道を切り開いた丘山氏の功績は計り知れません。東京大学での長年にわたる教育・研究活動は日本の仏教学の発展に寄与し、浄土真宗本願寺派における要職での活動は、宗門教学の振興に貢献しました。突然の還浄は惜しまれますが、その残した豊かな業績は、今後の仏教研究や教学伝承における貴重な遺産として生き続けるでしょう。

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