中上貴晶

中上貴晶：世界を駆ける日本のロードレースライダー

中上貴晶氏は、日本のプロオートバイレーサーとして、世界最高峰の舞台で活躍を続けています。1992年2月9日、千葉県千葉市に生まれた彼は、「タカ」の愛称で国内外のファンに親しまれています。

幼少期の才能開花と国内での圧倒的な速さ

中上選手のキャリアは、わずか4歳でポケットバイク（ポケバイ）に乗り始めたことからスタートしました。1998年にはレースデビューを飾り、初優勝を記録。その後、ミニバイクレースへとステップアップし、全国大会で史上最年少優勝、そして3年連続優勝という輝かしい実績を残し、早くからその非凡な才能を見せつけました。

2004年からはより本格的なロードレースに転向し、2006年には全日本ロードレース選手権GP125クラスにフル参戦。このシーズン、彼は出場した全てのレースで勝利を収め、14歳という若さで史上最年少での全戦全勝チャンピオンという偉業を成し遂げました。この圧倒的なパフォーマンスが認められ、MotoGPの運営団体DORNAが主催する若手育成プログラム「MotoGPアカデミー」に選抜され、スペイン選手権やロードレース世界選手権への海外挑戦の機会を得ました。

世界選手権への第一歩と日本での再起

2008年、16歳でロードレース世界選手権（WGP）125ccクラスにフル参戦を開始。世界の強豪と渡り合う中で経験を積みましたが、2010年には世界選手権でのシートを確保することが叶わず、一時的に日本へ帰国しました。帰国後は全日本選手権ST600クラスに参戦。同年、鈴鹿8時間耐久ロードレースでは、チームの一員として史上最年少での優勝を経験しました。

日本のレースで再び力を蓄えた中上選手は、2011年に全日本J-GP2クラスへ参戦。ここでは国内外での経験を活かし、参戦レース全てでポールポジションから優勝を飾るという圧巻の強さでシリーズチャンピオンを獲得しました。この年のロードレース世界選手権日本GPにおいて、Moto2クラスへのスポット参戦が実現。その時のパフォーマンスが評価され、2012年からのMoto2クラスへのフル参戦が決定しました。これは、一度世界選手権のフル参戦シートを失った日本人ライダーとしては史上初めてのことでした。

Moto2での飛躍と日本人6年ぶりの優勝

Moto2クラスに復帰した中上選手は、着実に順位を上げ、2013年には自身初となる世界選手権での表彰台を獲得しました。その後も連続表彰台を記録するなど、トップライダーの一角に食い込む活躍を見せます。2014年からは、日本のライダー育成を目指すIDEMITSU Honda Team Asiaへ移籍しましたが、技術的な問題や不運が重なり、この年は苦戦を強いられました。しかし、2015年には再び表彰台を獲得するなど復調の兆しを見せます。

2016年シーズンは、中上選手のキャリアにおいて大きな転換期となりました。波乱の展開となったオランダGPで、Moto2クラスでの自身初優勝を飾りました。これは日本人ライダーとしては高橋裕紀以来6年ぶりの快挙であり、彼の才能が再び世界に証明された瞬間でした。このシーズンは計4度の表彰台を獲得し、シリーズランキングでも自己最高の6位を記録するなど、最高峰クラス昇格に向けて勢いを加速させました。2017年も安定した速さを見せ、キャリア2勝目を挙げるなど、MotoGPへのステップアップを確実なものとしました。

最高峰MotoGPクラスでの挑戦と歴史的なPP獲得

2018年、中上選手は日本人として4年ぶりに最高峰MotoGPクラスへのフル参戦を果たしました。LCR Honda IDEMITSUから、世界のトップライダーたちが駆るファクトリーマシン、ホンダRC213Vに乗り換えての挑戦が始まりました。ルーキーイヤーは苦労も多く、特に決勝序盤での順位維持に課題が見られましたが、雨の中で行われた最終戦バレンシアGPでは、転倒者続出の難しいコンディションで粘り強い走りを見せ、初のトップ10フィニッシュとなる6位入賞を果たし、ポテンシャルを示しました。

2019年も引き続きMotoGPクラスに参戦。シーズン序盤から前年からの成長を見せ、イタリアGPではドライコンディションでの自己ベストとなる5位入賞を記録。しかし、この年はシーズン途中のクラッシュや右肩の慢性的な負傷に苦しみ、終盤戦を欠場せざるを得ない困難なシーズンとなりました。

2020年シーズンは、右肩の状態が万全ではないまま開幕を迎えますが、コロナ禍によるレース中断期間を利用して体調を回復させました。シーズン再開後、ホンダ陣営の主力ライダーが相次いで負傷離脱するという異例の状況下で、中上選手はホンダを牽引する役割を担うことになります。彼はこの重圧の中で見事なパフォーマンスを発揮し、フリー走行でのトップタイム記録、自己ベストを更新する4位入賞など奮闘。特に、スティリアGPでは初の表彰台獲得寸前まで迫る走りを見せ、その速さを証明しました。シーズン後半にかけては全選手中唯一となる10戦連続トップ10フィニッシュを達成するなど、驚異的な安定感を見せ、その活躍が評価されて契約を延長しました。さらに、テルエルGPでは、最高峰クラスで自身初、日本人としては2004年の玉田誠以来16年ぶりとなるポールポジションを獲得するという歴史的な快挙を成し遂げました。現在も世界最高峰の舞台で挑戦を続けています。

ライダーとして、そして一人の人物として

中上選手がキャリアを通じて使い続けているゼッケン番号「30」には、特別な思い入れがあります。これは14歳でMotoGPアカデミーの一員としてスペイン選手権に参戦する際に、当時の監督であったアルベルト・プーチ氏に選んでもらった番号であり、以来愛着を持って使い続けています。

彼の憧れのライダーは、同じホンダのエースとして活躍した故・加藤大治郎氏です。幼い頃、雑誌の企画で訪れた日本GPで加藤氏本人からもらったレーシングブーツを、今も大切に保管しているというエピソードは有名です。

Moto2クラスで共に世界を目指し、しかし悲劇的な事故で命を落とした富沢祥也氏とは、ポケバイ時代からのライバルであり親友でした。富沢氏の訃報に接した際は、レースへのモチベーションを失いかけましたが、富沢選手の家族の励ましを受けて再び前を向くことができました。富沢氏が亡くなったミサノ・サーキットは、中上選手にとって特別な場所であり、「祥也からパワーをもらえる」得意なサーキットだと語り、実際にMoto2時代に3度表彰台を獲得しています。

海外での生活は、Moto2参戦当初はチームの要人宅に居候するという異色の経験もしています。現在はスペインのバルセロナを拠点として、世界最高峰の舞台で戦う日々を送っています。また、以前は大型自動二輪免許を持たずにMotoGPを走っていたという意外な一面も持っています。

中上貴晶選手は、幼い頃からの圧倒的な才能と、世界最高峰での挑戦を通じて積み重ねてきた経験を武器に、今後も世界の舞台で日本人ライダーとして活躍を続けることが期待されています。

もう一度検索