中井権次一統

中井権次一統：丹波が生んだ彫刻の名工たち

中井権次一統は、丹波柏原藩（現在の兵庫県丹波市）を拠点に、神社仏閣の彫刻を手がけた職人集団です。初代の中井道源から始まり、9代目の貞胤まで、約200年にわたりその技術を継承しました。特に6代目の中井正忠以降は「権次」を名乗り、一統の名称の由来となっています。

起源と歴史

中井権次一統のルーツは、柏原八幡宮の三重塔再建に遡ります。1615年、京都与謝郡の中井役所から宮大工として中井道源とその弟が派遣され、1619年に三重塔が完成。道源はそのまま柏原に定住し、柏原中井家の祖となりました。

一統が彫物師として本格的に活動を始めたのは、4代目の言次君音の頃からです。18世紀中頃には、柏原八幡宮摂社の五社稲荷に龍の彫刻を施し、その技術が高く評価されました。5代目の中井正忠は「青竜軒」の屋号を名乗り、一族の宮大工とともに三重塔の再建にも携わりました。6代にわたる彫刻作品は、丹波地域を中心に、丹後、但馬、播磨にまで広がっています。

作品の特徴

中井権次一統の彫刻は、躍動感あふれる龍の表現に特徴があります。具体的には、以下のような点が挙げられます。

力強い爪: 3本の太い爪で宝珠をしっかりと掴んでいます。
特徴的な舌: 口を開けた時に、舌が大きく立ち上がっています。
赤い目尻: 目尻が赤く塗られていることが多いです。
螺旋状の髭: 銅製の髭が螺旋状に巻き上がっています。

また、木鼻には唐獅子、獏、象などの霊獣が並び、麒麟や十二支の動物、牡丹、謡曲や中国の神仙説話に登場する人物などが、周囲に配置されています。

系譜

中井権次一統は、以下の代々によって技術が継承されました。

初代: 中井道源
2代: 不明
3代: 不明
4代: 中井言次君音
5代: 中井正忠
6代: 中井権次正忠
7代: 中井権次正美
8代: 中井権次正瀧
9代: 中井貞胤
10代:中井丈夫
11代:中井光夫

10代目の中井丈夫までは宮大工として活動していましたが、11代目にあたる中井光夫は彫刻店・印判業を営んでいます。後継者は娘のみで、中井権次一統の宮大工としての系譜は途絶えています。

現在の状況

中井権次一統の作品は、現在も北近畿地方を中心に約300箇所で確認することができます。これらの作品は、地域文化の重要な一部として保存され、中井権次顕彰会による調査・研究も進められています。

中井権次一統の彫刻は、日本の伝統技術の粋を集めた貴重な文化遺産です。その技術と精神は、後世にまで語り継がれるべきでしょう。

参考資料

中井権次顕彰会『中井権次の足跡―ガイドブック・作品マップ保存版』2015年
岸名経夫「中井一統の技」『丹波新聞』2013年9月8日号より連載中
若林純『寺社の装飾彫刻・近畿篇』日貿出版社、2014年

関連項目

柏原藩
柏原八幡宮
* 中井正清

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