中国のキリスト教

中国のキリスト教：歴史と現状

中国におけるキリスト教は、長く複雑な歴史を歩んできました。7世紀の唐代にはネストリウス派の「景教」が伝来し、元や明、清の時代には様々な宗派の宣教師が布教活動を行いました。しかし、歴代王朝や共産党政権下では、儒教や共産主義イデオロギーの影響から、宗教活動は常に制限と監視下にありました。

近代の変遷

改革開放政策以降、経済発展や情報化の進展によって共産主義イデオロギーの絶対性が揺らぎ、都市部を中心にキリスト教への信仰が急速に広がりました。ピュー研究所の報告によると、中国のキリスト教徒は1949年の約100万人から2010年には5800万人に増加したと推定されています。ブリタニカ国際年鑑はさらに、中国の人口の7～7.5%にあたる9100～9750万人と推定していますが、近年は非公認教会も含めると1億3000万人を超えるとの見解もあります。

教会規模と教派

現代中国では、カトリックは「天主教」、プロテスタントは「基督教」または「耶蘇教」と呼ばれ区別されています。正教会もロシアなどから伝来し、「東正教」と呼ばれています。香港では正教会が盛んで、中国本土でもハルビン、ウルムチなどに教会が存在し、近年は新たな教会建設も進んでいます。ただし、正教会の聖職者活動は公認されていません。

政府公認と非公認教会

中国政府は、「中国基督教三自愛国運動委員会」、「中国基督教協会」、「中国天主教愛国会」、「中国正教会」といった公認教会を認めています。公認教会の信者数はカトリックで約500万人、プロテスタントで1700～1800万人と推定されます。しかし、政府の登録を受けない「地下教会」と呼ばれる非公認の教会も多数存在し、プロテスタント系の「家の教会」や、バチカンと国交のない中国政府が弾圧するカトリック「地下教会」などが含まれます。これらの非公認教会の信者数は、公認教会の信者数を大きく上回ると推測されています。全能神教会などの新興宗教も存在します。

宗教政策と信者の弾圧

中国憲法は信教の自由を保障していますが、政府は外国の影響を排除しようとします。政府は公認団体が任命した聖職者のみを正当な指導者と認め、これに従わない教派とは対立しています。中国共産党幹部やその家族の間にもキリスト教徒が増えているため、政府はバチカンとの関係修復にも積極的ですが、バチカンと台湾との国交が障壁となっています。2016年の「改正宗教事務規定」では、「愛国心」や「中国の夢」などを強調し、宗教活動の監視を強化。地下教会の集会や海外での宗教活動への参加などが制限されています。アメリカの人権団体「オープン・ドアーズ」は、中国をキリスト教徒に対する迫害が激しい国のリストに掲載しています。

中国におけるキリスト教の宣教の歴史

唐～元: 635年、ネストリウス派の景教が伝来。13世紀にはモンゴル帝国でフランシスコ会士が宣教。

明末～清初期: 16世紀以降、イエズス会士マテオ・リッチらが来訪し、中国文化を理解した上で布教。西洋科学技術の伝来にも貢献。典礼論争を経て、イエズス会は1773年に解散。

清末期: 19世紀、プロテスタント宣教師が本格的な布教を開始。聖書の翻訳や教育活動を行い、太平天国や義和団の乱にも影響を与えました。列強の支援による宣教は反発を招き、教案と呼ばれる暴動も発生しました。「老西開事件」は、中国人聖職者の登用を促す契機となりました。

近代～現代: ロシア革命後の混乱で多くの教派の信徒が中国へ流入。中華人民共和国成立後は、政府主導の教会が組織され、外国人宣教師は追放されました。カトリック教会では、バチカンと中国政府の承認を得た司教任命をめぐって対立が続いています。プロテスタントでは「三自愛国運動」と非公認の「家の教会」が共存していますが、「家の教会」は弾圧されています。バチカンと中国政府は2018年に司教任命問題で暫定合意に至りましたが、地下教会の信者たちは不安を抱えています。

中国におけるキリスト教は、政府の政策、信者の信仰、国際的な関係などが複雑に絡み合い、現在もなお発展と変化を続けています。

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