中央銀行発行デジタル通貨

中央銀行デジタル通貨（CBDC）とは

中央銀行デジタル通貨（CBDC）とは、中央銀行が発行するデジタル形式の法定通貨です。これは、物理的な現金や既存の電子マネーとは異なり、中央銀行が直接発行・管理するデジタルマネーであり、不換紙幣としての性質を持ちます。CBDCの概念は、ビットコインなどの暗号通貨に触発されて生まれましたが、CBDCは中央銀行が発行主体である点が大きな違いです。

CBDCの歴史

初期

1990年代には、フィンランドの「Avant」プリペイドカードのような電子マネーが中央銀行によって発行された事例があります。しかし、現在議論されているCBDCの概念は、2010年代に入り、ビットコインなどの暗号通貨の登場によって大きく影響を受けました。

2010年代

2015年、イングランド銀行はブロックチェーン技術を利用した中央銀行通貨の可能性について議論し、マイナス金利の実施の可能性を示唆しました。2016年には、同銀行の幹部が「中央銀行デジタル通貨」という言葉を初めて使用し、ビットコインからの影響を認めています。

同時期、スウェーデン国立銀行は「E-クローナ」の検討を開始し、2020年には概念実証テストを実施しました。ウルグアイでも2017年にデジタルペソの発行テストが開始され、東カリブ海中央銀行も2019年にフィンテック企業と協力してパイロットプロジェクトを開始しました。

欧州では、スペイン銀行の元総裁がデジタルユーロの導入を提唱しましたが、欧州中央銀行（ECB）は当初、導入に慎重な姿勢を示していました。しかし、2019年には、ECBもCBDCの可能性について評価を続けることを表明しました。

2020年代

2020年には、リトアニア中央銀行が世界初となる「正式に発行された中央銀行デジタル通貨」である「LBCoin」を発行しました。中国人民銀行は、深圳市でデジタル人民元の公開実験を開始し、その利用を拡大させています。これは、主要国の中で初めてCBDCを普及させた事例となります。

日本銀行も2020年に「中央銀行デジタル通貨に関する日本銀行の取り組み方針」を発表し、現時点での発行計画はないものの、準備を進める方針を示しました。また、米国の中央銀行であるFRBは、導入の先陣を切るつもりはないものの、研究は続けるとしています。バハマやカンボジアでもデジタル通貨が発行されるなど、世界各国でCBDCの導入に向けた動きが加速しています。

2023年には、イギリスでデジタルポンドの導入が議論され、スイスでは電子決済による国家監視への懸念から国民投票が行われました。

CBDCの実装

CBDCは、中央銀行、政府、または認定された民間事業体が運営するデータベースを使用して実装される可能性が高いです。このデータベースは、適切なプライバシーと暗号化保護を備えた、個人や企業などのあらゆる事業体が保有する金額の記録を保持します。CBDCは中央集権的なシステムであり、ブロックチェーンなどの分散型台帳技術は必ずしも必要とされません。

CBDCの種類

日本銀行は、CBDCを以下の2種類に分類しています。

ホールセール型: 金融機関のみが利用するタイプで、分散型台帳技術が活用されます。
一般利用型: 一般の個人や法人が利用するタイプで、日本では民間の金融機関を経由して提供されることが想定されています。

また、中央銀行ではなく政府が発行するデジタル通貨も存在します。ベネズエラ政府が発行した「ペトロ」は、普及が進まず2024年1月に廃止されています。

CBDCの危険性

CBDCには、以下のようなリスクが指摘されています。

銀行システムの媒介不活性化: CBDCが普及すると、従来の銀行システムが利用されなくなる可能性があります。
中央集権化: CBDCは中央銀行によって管理されるため、口座凍結などの権限が中央に集中する可能性があります。
デジタルドル化: 外国のデジタル通貨が普及すると、地域通貨の代替になる可能性があります。
プライバシー: CBDCの利用履歴が政府によって把握されることで、プライバシーが侵害される可能性があります。
政府による社会操作: CBDCが、政府による国民の行動監視や操作の手段として利用される可能性があります。

mBridge

「mBridge」は、CBDCを使用したリアルタイム、ピアツーピア、国境を越えた支払いをサポートするマルチCBDCプラットフォームです。これは、国際的な決済効率の向上を目指す取り組みです。

まとめ

CBDCは、デジタル経済の発展とともに、世界各国で導入に向けた検討が進められています。その導入は、金融システムや社会に大きな変革をもたらす可能性があります。CBDCの利点とリスクを十分に理解し、慎重に進めていく必要があるでしょう。

参考文献

Frankenfield, Jake (May 2019). “51% Attack”. Investopedia.
Tilton, Andrew (29 October 2020). “The what and why of digital currencies”. Goldman Sachs Research Newsletter (Goldman Sachs) (94).
Carstens, Agustín (27 January 2021) (英語), Digital currencies and the future of the monetary system, Basel: Bank of International Settlements
How China's Digital Currency Could Challenge the Almighty Dollar; Charlie Campbell, (11 August 2021)
China is blazing a trail with the digital yuan and governments around the world are watching closely; Ethan Lou, (27 January 2022)

外部リンク

中央銀行デジタル通貨 : 日本銀行 Bank of Japan
The Myth of the Chinese Debt Trap in Africa Bloomberg Quicktake - YouTube
* Professor Duffie explains China's CBDC CBER Forum - YouTube

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