中山富三郎 (初代)

初代中山富三郎についての詳細

初代中山富三郎（なかやま とみさぶろう）は、1760年に生まれ、1819年に亡くなった江戸時代後期の著名な歌舞伎役者です。立女方としての彼の幅広い才能によって、彼はその時代における最高の女形と言われる存在となりました。富三郎は、前名を松兵衛、俳名を錦車、屋号を近江屋として活動しており、彼のあだ名である「ぐにゃ富」は、その独特な容姿や柔軟な演技スタイルから生まれたとされています。

生い立ちと初期の活動

富三郎は、敵役で有名な市川幾蔵の子として生まれました。歌舞伎の世界に入ったのは初代中山文七の弟子としてであり、後に四代目松本幸四郎に師事しました。彼の初舞台は安永5年（1776年）のことで、初めて登場した際にはまだ若女房の役を演じていました。2年後、若女方に昇進し、次第に彼の名は広まっていきました。

安永9年11月には、父とともに江戸に下り、市村座での出演を果たします。この時、彼はその演技力で徐々に注目を集めるようになり、寛政2年（1790年）には市村座で立女方に抜擢されました。これにより、江戸と上方両方での名声を確立しました。

才能と演技スタイル

富三郎は、主に世話物を得意とし、特に傾城役や世話女房役において傑出した腕前を見せました。彼の演技は、柔らかな身のこなしと繊細な感情表現に支えられ、観客の心をつかむものでした。文化年間には彼の名声はピークに達し、文化9年（1812年）には「白功上上吉」という高い地位に昇進しました。

「ぐにゃついていた」という彼のあだ名の由来については諸説ありますが、その柔軟な身体動作や演技の特性が反映されていると言われています。その魅力は歌舞伎だけでなく、浮世絵にも表現されました。

浮世絵による名声

特に、東洲斎写楽の作品「初代中山富三郎のさざなみ辰五郎女房おひで」は、富三郎の姿を描いた名作として高く評価されています。この絵は、富三郎が演じたおひでの役を鮮やかに表現しており、写楽の技術の高さを示しています。おひでが安倍宗任の妹・てりであることが後に判明したこともあり、彼の作品への関心がさらに高まりました。

晩年と死

富三郎は文政2年（1819年）9月10日に60歳で亡くなりました。その生涯の間に、彼は江戸後期の女形という役割を完全に体現し、今なお多くの人々の記憶に残る存在となっています。彼の演技は、後世の歌舞伎役者たちにも多大な影響を与え、彼が築き上げた地位は今日でも不朽のものとして評価されています。富三郎の遺した演技やそれに伴う文化の影響は、歌舞伎界における重要な資産であり、彼の存在は今もなお称えられています。

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